個性に合わせた作業を-農業と福祉のお話

 

農福連携に取り組もうと思った際、障がいのある方にどんな作業をしてもらえばいいか悩んだりすることはありませんか?
このブログでは、当園で取り組んでいる農福連携で障がいのある方がどんな作業をしているかを紹介していきます。
これから農福連携に取り組もうと考えている方の参考になれたらと思います。

農福連携とは?

農福連携とは、担い手不足が深刻化する農家と障がいのある人の就労支援を行う施設が連携し、障がいのある人が農家で農作業をする(作業委託や雇用)ことです。 
2016年頃から徐々に農福連携が推奨されるようになってきました。 

農福連携という言葉が出る前も、施設が自ら田畑を借り受け耕作→収穫→販売までを行う取り組みや施設が農家に行き作業を手伝う取り組みはありました。
農作業は障がいのある方の心身にプラスの効果があり、工賃/給料が捻出できるとし農福連携という言葉が出る前から盛んに取り組む施設もあります。 

しかし、施設で農業を始める上で初期投資(トラクターや軽トラといった農業機械など)にお金がかかること、作業時間が限られている中で作付けや管理に十分に手が届かず畑が荒れてしまいやすいこと、収穫のタイミングや商品としての品質が落ちしてしまい「商品」になれない野菜が多いこと、といった経営的な課題も山積していました。 

農業分野では、農業従事者の高齢化がどんどん進み、また耕作放棄地も増えていることから、これらの問題に歯止めをかける取り組みの1つとして農福連携が推奨されたと言われています。

農福連携で生じやすいミスマッチ

農福連携の取り組みが広がると、農家で農福連携に興味を持つところや施設でも農業に興味をもつところが増えてきました。
しかし、「さあ、始めよう!」という動きになっても「どんな作業をお願いできるかわからない」といった問題や農家側が求めている作業クオリティに至らず「やっぱりやめます」といった事態もあります。

こうしたミスマッチには大きく2つのことが原因にあると考えられます。

農家側が障がい者に期待しすぎている場合

障がい者=健常者と同じように農作業ができる、という誤解が少なからずあると感じています。 
また、障がい者を人件費の安い労働者と考えたり、助成金がもらえるから雇用すると考えている人もいます。
実際に作業を障がいのある人たちに行ってもらい、「全然作業できないから、もう来なくていい」と連携が解除されたケースもあります。 

障がい者就労支援施設には、A型(雇用契約を結ぶ)、B型(雇用契約を結ばない)、移行支援型といったタイプに分けられますが、いずれにしても「就労」を支援するところ。
ですので、過度の期待や目論見はしないほうがよいと個人的に考えています。 

施設側が期待しすぎている場合

私自身が経験したことですが、施設側が期待しすぎている場合もあります。
例えば、
施設職員さんも利用者さんも農業の経験がないため、農家に指導してもらいながら給料をもらえる。
利用者さんが何か問題を起こした場合、農家側が面倒を見てくれる。
草取りなどの簡単な作業で通年、受け入れてくれる。
施設側の要求を全てのんで作業させてくれる。
といったようなものです。

こういったことを経験した農家さんの中には「もう障がい者とは関わらない!」と憤慨していた方もいるので、注意が必要と考えています。 

どんな作業をお願いするとよい?

では、農家側と施設側のミスマッチを防ぎつつ、利用者さんにどんな作業をしてもらうといいのでしょうか?

私は、施設側とじっくり議論を重ね、時間をかけて、障がいのある人の「個性にあった作業」を見出していくこと

が大きな1つのポイントなのでは、と考えています。 

農家もそれぞれ農法ややり方、年間の作業、作つけ品目がありスケジュールも管理の仕方も異なります。
農家側は今自分たちがしている作業を一旦棚卸し、障がいのある方が出来そうな作業を洗い出します。
一連の作業の中でも細分化出来るものがあるので、出来るだけ細かくするといいのではないかと思います。

福祉側では、その細分化された作業の中でどの作業がどの利用者に適しているのかを見極めていきます。
最初から上手くいくケースもあればそうでないケースもあるので、そこは利用者の作業を観察しながら少しずつ修正していきます。

こうした地道な作業で障がいのある人それぞれの個性にあった作業を見つけ出していくことで、農家側も施設側もwin-winになれる作業が出来るようになると考えます。

当園での事例

MITUでは、市内のNPOさんとお試し期間として1年かけていろんな作業をしてもらいながら、メンバーさん(障がいのある方)一人ひとりがどんな作業が得意かあるいは苦手かを見て、職員さんと作業の流れを確認・調整しながら取り組んできました。そして、1年後に正式に農福連携の契約を交わしています。

このお試し期間の中で、

「◯◯さんが△△の作業するとき、こんな風にすると良いかも?!」
「この作業は苦手だから、あっちの作業してもらうとどうだろう?」

といったことを何度も繰り返してきました。

当園では、とりあえずやってみてもらい、その様子を観察しながら作業を修正していくというスタンス行ってもらいます。
1つの作業を行う場合でも、道具の持ち方や立ち位置、姿勢を変えるだけでスピーディに作業ができるようになることもあるので、細かいところまで観察します。

例えば、種まきをする際には、

1.種をまくラインにひもを張る
2.種をまく位置に印をつける
3.穴をあける
4.決められた種を穴に置く
5.穴に土をかぶせる

といった作業に分けて、メンバーさん1人1人に実際にやってもらいます。
作業をやってもらいながら支援員&私で観察を行い、各々得意そうな作業に割り振りし直します。
次に、得意そうな作業をしてもらいながら、再び2人で観察を行い、今度はその作業をいかに早く終わらせることが出来るかを考えます。
この時に姿勢や立ち位置、手や体の動き、力加減、道具の使い方などを見て、気になるようであれば別のやり方や道具で行ってもらうようにします。
この一連の流れを行うにはかなりの時間がかかります。

個人的な考えとしては農福連携に取り組む場合には、単発や単年での取り組みでは難しく、時間をかけていくほうがいいと考えます。
じっくりと時間をかけてメンバーさん個々の作業スタイルや農園に来る施設メンバーのチームとしての力を上げていくことで、農園としても大きな即戦力となっています。

農福連携に向けて

農福連携がある意味でブームになりかけている昨今ですが、農家と施設がよりよい関係を築き、農家も障がいのある方もいい方向に進むためには、時間をかけて進めていくことも大切かな、と考えています。 

農家としては、ベースに「経営」があります。
施設としては、ベースに「福祉」があります。 

それぞれ違う立場から障がい者の就労支援を考えて、「協働」していきたいですね。

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