以前のブログ(https://sizennouenmitu.com/archives/524)で、「農家がいなくなる日が来るかもしれない」という少し衝撃的なお話をさせていただいてから、早一年が経ちました。
「農家がいなくなる?!」と聞いても、農業に直接関わりのない方にとっては、なかなかピンとこないかもしれません。しかし、私たちのように日々農業の現場に身を置いている者にとっては、農業従事者が着実に減少しているという感覚は、決して他人事ではありません。
今回のブログでは、最新の統計データと、私たちが日々の現場で感じている現実を交えながら、農業従事者が減少している現状について、少し深く掘り下げて見ていきたいと思います。
Table of Contents
最新データで見る農業従事者の現状
一体、現在日本にはどのくらいの農業従事者がいるのでしょうか?そして、その数はどのように推移しているのでしょうか?
農林水産省が公表している「農業構造動態調査結果」の最新データ(令和5年)によると、2023年の農業従事者数は136万人となっています。これは、前年の144万人からさらに8万人減少した数字です。
さらに深刻なのは、農業の中心的な担い手である基幹的農業従事者の減少です。2023年の基幹的農業従事者数は116万人となり、前年の124万人から8万人減少しています。
ここで、以前のブログで取り上げた平成29年、30年のデータと比較してみましょう。
この表から明らかなように、農業従事者数、特に基幹的農業従事者の減少傾向は止まるどころか、加速していると言わざるを得ません。
注目すべきは、65歳以上の基幹的農業従事者数も減少している一方で、それ以上に65歳未満の基幹的農業従事者が大きく減少している点です。これは、私たちの現場感覚とも一致しており、将来の日本の農業を支えるべき若い世代の担い手がなかなか増えていないという厳しい現実を示しています。
農林水産省のより詳細な統計データはこちらで確認できます。 https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html
現場で感じる高齢化と増えない若者たち
その1−生産者交流会での実感
数年前に参加した取引先主催の生産者交流会でのことです。グループディスカッションの時間に、多くの生産者の方々が共通して抱える悩みとして挙げたのが、やはり「後継者不足」でした。
どの産地、どの生産者グループも、後継者の確保に苦労しており、「このままでは廃業も考えざるを得ない」という切実な声も聞かれました。一人でも後継者が見つかった時には、「これで何とか命脈を保てる!」と、まるで救世主が現れたかのように喜ぶそうです。
また、別のグループでは、「どうすれば農業後継者が増えるのか」というテーマで議論が交わされていました。そこでは、農業で生計を安定的に立てられるような仕組み作り(天候に左右されやすい市場価格の安定化など)の必要性や、生産者と消費者が一体となって食を守っていくことの重要性など、多くの共通認識が生まれていました。
その2−取引先からの声
また、ある取引先の方からは、近年、取引のある生産者の高齢化が急速に進んでおり、登録している生産者数が年々減少しているというお話を伺いました。
地元の食材を積極的に活用する「地産地消」に力を入れているにも関わらず、地元で多様な種類の野菜を集めることが以前よりも難しくなってきているそうです。かつては、少量多品目で様々な野菜を栽培している農家が地域に多く存在し、直売所などは色とりどりの野菜で賑わっていたと言います。
しかし最近では、特定の品目を大規模に栽培する農家が増える傾向にあり、結果として、同じ時期に同じ野菜が大量に入荷したり、そもそも直売所に出荷されなくなったりするケースも増えていると考えられています。
さらに、私たちの周りを見ても、一部のスーパーや食品加工業者が、将来を見据えて有望な農家を囲い込むような動きも出てきているように感じます。
農家がいなくなる?!その可能性と影響
最新の農業従事者の統計データ、そして私たちが日々の現場で感じている状況を総合的に見ると、今後も農家が減少していくという予測は、決して悲観的な未来予想図とは言い切れない現実味を帯びています。
特に、新型コロナウイルスの感染拡大以降、原油価格や農業資材の価格が高騰し、経営体力の弱い中小規模の農家だけでなく、大規模な農業法人でさえも撤退を検討する動きが出始めています。この状況が、農業従事者の減少にさらに拍車をかける可能性も否定できません。
もし、このまま農家の減少が進んでいくと、私たちの食卓にも様々な影響が出てくることが予想されます。例えば、地域によっては地元産の新鮮な野菜が手に入りにくくなったり、特定の野菜の価格が高騰したりする可能性も考えられます。
農家が減ることのメリット・デメリット
では、農家が減ることは、社会全体にとってどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
デメリット
- 食料自給率の低下: 国内の食料生産量が減少し、海外への依存度が高まる可能性があります。これは、国際情勢の変化による食料供給の不安定化や、食料価格の高騰を招くリスクを高めます。
- 地域の活力低下: 農村地域の人口減少と高齢化が進み、地域社会の維持が困難になる可能性があります。伝統的な食文化や景観が失われる恐れもあります。
- 食の安全性の懸念: 輸入食品への依存度が高まることで、食品の安全性に関する消費者の不安が増大する可能性があります。
- 生物多様性の損失: 地域に根ざした多様な作物の栽培が減少し、生物多様性が失われる可能性があります。
- 雇用の減少: 農業関連産業を含めた地域全体の雇用機会が減少する可能性があります。
メリット
- 大規模化・効率化: 残った農家が経営規模を拡大し、機械化や省力化を進めることで、生産効率が向上する可能性があります。
- 技術革新の促進: 人手不足を補うために、AIやロボット技術などのスマート農業の開発と導入が加速する可能性があります。
- 新たなビジネスチャンスの創出: 耕作放棄地の活用や、農業と観光などを組み合わせた新たなビジネスモデルが登場する可能性があります。
- 環境負荷の低減(可能性): 集約的な農業が進むことで、単位面積当たりの農薬や化学肥料の使用量が減少する可能性があります(ただし、大規模化による環境負荷増大の懸念もあります)。
このように、農家の減少は、食料の安定供給や地域の維持といった観点からは多くのデメリットが考えられますが、一方で、生産性の向上や新たな技術革新の促進といった側面から見ると、わずかながらメリットも考えられます。しかし、現時点ではデメリットの方が圧倒的に大きいと言わざるを得ません。
これからの農業と私たち
今後、生産者が減少していくことで、私たちの農産物の購入環境は、地域によって差が出るなど、少しずつ変化していくかもしれません。
しかし、一方で、私たち消費者が自分に合った生産者を見つけやすくなっているという側面もあります。インターネットやSNSの普及により、多くの生産者が自身のホームページを開設したり、日々の情報を発信したりするようになり、以前よりもずっと気軽に繋がれるようになりました。
また、旅行会社と生産者が連携して農業体験ツアーを企画するなど、消費者が直接農家を訪れ、交流する機会も増えています。
これからは、消費者と生産者がより近い距離で、お互いを理解し、支え合う関係を築いていくことが、日本の農業の未来にとって非常に重要になるのではないでしょうか。
私たちも、消費者の方々との繋がりを大切にし、顔の見える関係を築きながら、安心安全な農産物を届けられるよう、これからも努力を続けていきたいと思います。