「畑から元気を届ける」。
宮城県仙台市で農業を営むMITUのコンセプトには、私たちの根源的な願いが込められています。土に触れ、作物を育てる。その営みを通して、心身の健康を取り戻し、活力を得ていただきたい。この想いの背景には、園主の一人である佐藤自身の経験があります。
かつて、原因不明の病に苦しみ、仕事もままならない状態だった佐藤。そんな彼が、藁にもすがる思いで始めたのが農業でした。土を耕し、種をまき、作物の成長を見守る中で、徐々に心身の調子が上向き始めたのです。
今回のブログでは、佐藤が農業を通してどのように元気を取り戻していったのかを赤裸々に語りながら、「元気になること」「健康」について深く掘り下げていきたいと思います。第一弾のテーマは、私たちの生命活動の根幹を支える「睡眠」についてです。
同じように眠りの悩みを抱えている方、「もっと元気になりたい」と願う方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
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知っておきたい、睡眠と健康の密な関係
近年の研究によって、睡眠不足が私たちの心身に様々な悪影響を及ぼすことが明らかになっています。例えば、血糖値が正常値と異常値の間にある状態である耐糖能障害や、病気と闘う免疫機能の低下、心の不調であるうつとの関連、そして、日々の活動に不可欠な集中力や記憶力の低下など、その影響は多岐にわたります。
もちろん、人によって最適な睡眠時間は異なります。しかし、アメリカで行われた大規模な研究では、統計的に見て、7〜8時間の睡眠を確保している人が、病気のリスクなどが低い傾向にあるという結果が出ています。
さらに重要なのは、睡眠時間だけでなく、「睡眠の質」です。たとえ時間を確保しても、途中で何度も目が覚めてしまったり、眠りが浅かったりすると、十分な休養を得ることはできません。質の高い睡眠は、心身の健康を維持するために不可欠なのです。
それは単なる寝不足?睡眠障害の基礎知識
「最近、なかなか寝付けない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」といった経験をお持ちの方もいるかもしれません。これらは、睡眠に何らかの問題を抱えている状態、すなわち「睡眠障害」のサインである可能性があります。
「睡眠障害=不眠症」と捉えられがちですが、それは一部に過ぎません。日中の過度な眠気、睡眠中に起こる異常な行動、睡眠のリズムが乱れてなかなか元に戻せない状態なども、睡眠障害に含まれます。
日本生活習慣予防協会のホームページによると、日本では成人の約20%が慢性的な不眠に悩んでおり、15%もの人が日中に過剰な眠気を感じていると言われています。決して他人事ではないのです。
厚生労働省は、睡眠障害の症状を大きく以下の4つに分類しています。
- 不眠:寝つきが悪い(入眠困難)、夜中に目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)、ぐっすり眠った感じが得られない(熟眠障害)など。
- 日中の過剰な眠気:昼間に強い眠気を感じて集中力が続かない、意図せず眠ってしまうなど。
- 睡眠中に起こる異常行動や異常知覚・異常運動:寝言、寝ぼけ行動、夜間の異常な食行動、睡眠時遊行症(夢遊病)、レム睡眠行動障害(夢の内容と一致した行動)、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)など。
- 睡眠・覚醒リズムの問題:生活リズムと睡眠・覚醒のリズムが合わない、昼夜逆転、時差ボケなど。
特に、睡眠中に起こる異常行動や異常運動は、自分自身では気づきにくい場合があります。例えば、寝言や無呼吸は同居する人に指摘されて初めてわかることもありますし、夜間に脚がピクピクと動くむずむず脚症候群も、不快感として自覚されるものの、睡眠障害の一種とは認識しにくいかもしれません。
眠れない日々、体調不良、そして精神的な苦悩
私、佐藤自身も、過去に長らく睡眠の問題に苦しめられました。交通事故の後遺症による原因不明の症状(後に脳脊髄液減少症・外傷性頸部症候群と診断)に悩まされていた時期、不眠状態が続いたのです。
それまで夜型の生活で、睡眠時間も6時間程度と決して長くはありませんでしたが、事故後はさらに眠れない日々が続きました。
当時の私は、原因不明の症状を突き止めるためにいくつもの病院を巡っていました。しかし、行く先々で様々な診断が下され、中には「自律神経失調症」や「うつ状態」、「対人恐怖症」といった精神的な病名を告げられることもありました。
今になって思えば、慢性的な不眠状態に加え、一向に改善しない体調不良に精神的にも追い詰められていたのだと思います。
当時の私が抱えていた具体的な症状は、以下のようなものでした。
- 眠りたいのに眠れない状態
- 一日中、強烈な眠気に襲われ、疲労感が全く取れず、注意力も集中力も、そして何をする気力さえ湧いてこない状態
- 夜になると脚が火照ったり、ピクピクと痙攣するような不快な感覚
- 夜中に、身体のどこか(主に手や足)がびくっと大きく動き、その衝撃で目が覚めてしまう
- (同居する家族に指摘されましたが)ひどい寝言や、呼吸が止まっているような状態(無呼吸)が多い
特に辛かったのは、1時間も起きていると頭がフラフラして吐き気や手足のしびれなどがひどくなり、すぐに横にならざるを得なかったことです。しかし、横になってもなかなか寝付けず、さらに症状が悪化するという悪循環に陥っていました。
不眠に対して、最初は病院で睡眠導入剤を処方されました。しかし、私には合わなかったようです。薬を飲むと確かに意識を失い、朝まで眠ることができたのですが、全身の疲労感や不快感が非常に強く、さらに日中の眠気やふらつきがひどくなったため、数回で服用を止めてしまいました。
運動と睡眠、そして精神障害との深い繋がり
ここで、睡眠と運動の関係、そしてそれらが精神障害にどのように関連するのかについて、少し掘り下げて考えてみましょう。
適度な運動は、私たちの心身に様々な良い影響をもたらすことが科学的に証明されています。体力の向上はもちろんのこと、ストレス解消、気分の改善、そして質の高い睡眠の獲得にも繋がります。
運動によって適度な疲労感が得られると、入眠がスムーズになり、深い睡眠が得られやすくなります。また、運動は自律神経のバランスを整え、ストレスホルモンの分泌を抑制する効果も期待できます。これにより、夜間の覚醒が減り、より安定した睡眠を維持することができると考えられています。
一方、睡眠不足は、精神的な健康にも大きな悪影響を及ぼします。前述の通り、うつ病との関連は深く、不眠がうつ病の発症リスクを高めるだけでなく、うつ病の症状を悪化させる可能性も指摘されています。また、不安障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)など、他の精神障害とも関連があることが研究で示唆されています。
さらに、興味深いのは、運動が精神障害の予防や改善にも役立つ可能性があるということです。運動療法は、うつ病や不安障害に対する補助的な治療法として用いられることもあります。運動によって脳内の神経伝達物質のバランスが整い、気分を安定させる効果や、ストレスに対する抵抗力を高める効果が期待できるためです。
つまり、良質な睡眠と適度な運動は、心身の健康を維持するための両輪であり、どちらが欠けても、私たちの心はバランスを崩しやすくなってしまうのです。
畑仕事がもたらした生活リズムの変化
私が長年の不眠から解放されたのは、原因不明の症状に悩まされてから数年後のことでした。きっかけは、体調に合わせて少しずつ運動量を増やしていったことです。
東日本大震災を機に、長年勤めていた会社を退職し、農業を始めたのが転機となりました。農業を始めた当初は、慣れない作業の連続で、朝から晩まで畑で土にまみれる毎日でした。自然の中で体を動かすことは苦ではなく、むしろ楽しかったのですが、体力はすぐに限界を迎え、毎日クタクタに疲れていました。
研究報告にもあるように、日中に太陽の光を浴びること、そして軽い運動であっても体を動かすことは、夜の睡眠の質に良い影響を与えると言われています。私の場合は、まさにその効果を実感することになりました。
私の生活は、以下のように変化していきました。
- 日中の屋外での活動量が大幅に増加(主に畑仕事) ↓
- 最初は疲労困憊で、昼寝も夜もぐっすり眠る毎日。目覚まし時計なしでは朝起きられないほどでした。この頃は、今よりも睡眠時間がかなり長かった記憶があります(平均8〜9時間)。 ↓
- 徐々に生活リズムが整い、昼型の生活に移行。睡眠時間の平均は7.5時間前後になりました。この頃になると、目覚まし時計を使わなくても自然に目が覚めるようになりました。
このような生活の変化を通して、私の不眠は徐々に解消され、長年悩まされていた疲労感や倦怠感も感じなくなり、心身の調子は明らかに良くなっていきました。
不眠が解消された今では、逆に睡眠不足になると、次の日の集中力が低下したり、記憶力が悪くなったり、仕事のパフォーマンスが落ちることを実感するため、以前よりも積極的に睡眠時間を確保するようになりました。
また、不思議なことに、かつては目覚まし時計がないと起きられなかった私が、今では夜明けとともに自然に目が覚めるようになったのです。夏場は朝4時頃、冬場は7時前頃と季節によって変動はありますが、日の出と共に起き、日没と共に眠るという、ある意味で「野性的」な生活を送っています。
いかがでしたでしょうか?
人によって適切な睡眠時間や入眠時間、そして心地よいと感じる生活リズムは様々です。しかし、自分に合った睡眠時間と生活リズムを見つけることが、心身ともに健康でいるための重要な鍵となることは間違いありません。
今回は、睡眠と健康の関係、そして私自身の経験についてお話しました。次回は、夜よく眠るために、日中に意識したい日光浴や運動について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。どうぞお楽しみに。