MITUの野菜づくり、その個性と進化 – 草生栽培から慣行栽培へ

「MITUさんでは、どんな風に野菜を育てているんですか?」

最近、こう尋ねられることが多くなりました。野菜の育て方は、本当にその土地の気候や土壌、そして何よりも農家さん一人ひとりの経験や考え方によって千差万別。「個性」という言葉がしっくりくるほど、多様な栽培方法が存在しますよね。

このブログでは、私たちMITUがこれまでどのような考えを持ち、どのような方法で野菜を育ててきたのか、そして現在、どのように変化してきているのかをご紹介したいと思います。

大地と共生する知恵 – 草生栽培という選択

少し前まで、MITUでは主に「草生栽培」という方法を中心に野菜を育てていました。草生栽培と聞くと、果樹園の風景を思い浮かべる方も多いかもしれません。その名の通り、果樹園に下草を生やす栽培方法で、除草剤や耕うんによって草を枯らすのではなく、あえて草を生かすことで様々なメリットが生まれると言われています。

なぜ果樹栽培で草生栽培が注目されるようになったのでしょうか?それは、除草剤や耕うんが果樹の根を傷つけ、果実の味を悪くする可能性があると考えられているからです。下草を生やすことで、雨風による土壌の流出を防ぎ、有機物の供給を促し、さらには害虫の天敵となる生物の生育環境を整えるといった効果が期待できます。

この草生栽培は、野菜作りにおいても応用されています。緑肥作物と呼ばれる植物を野菜と一緒に育てたり、雑草を生やして共生させ、それを刈り取って肥料として活用したりするのです。自然栽培に取り組む農家さんだけでなく、近年では慣行栽培の農家さんでも、この草生栽培や緑肥栽培を取り入れる動きが広がっています。

その背景には、農薬に対する害虫の抵抗力の問題があります。次々と新しい農薬が開発されても、害虫はすぐに耐性を獲得し、まるでいたちごっこのように農薬の使用量が増えてしまう現状があります。そこで、農薬の使用を極力減らし、自然界に存在する害虫の天敵を増やすことで害虫の被害を抑えるという考え方が広まりつつあり、宮城県農業試験場などでもこのような研究が進められているのです。

MITUの畑から – 土を知り、活かす

では、私たちMITUでは実際にどのような考えのもと、野菜を育ててきたのでしょうか。

土壌分析から始まる、土との対話

MITUでは、野菜の種をまいたり苗を植えたりする前に、必ず土壌分析を行っています。専門機関にお願いすることもありますが、自分たちで簡易的な土壌検査キットや分析機器も備えているため、それらを活用して分析することが多いです。

ただし、これらの分析でわかるのは土壌の栄養分だけではありません。畑に生えている草の種類、土壌の中の生き物の様子、水はけの良さなども、土の状態を知る上で非常に重要な情報となります。これらの情報を総合的に判断し、どのような対策を講じるべきかを検討します。

土壌分析の結果や土の環境状態を考慮し、堆肥を入れるべきか、魚由来の肥料が良いのか、土壌改良材やミネラル資材を試してみるべきかなど、様々な選択肢の中から最適な方法を選びます。

畑を育む資材たち – 個性と役割

2018年当時、私たちが使用していた主な資材は以下の通りです。

  • 郷の有機: 地元、大郷町で作られている堆肥です。牛糞、もみがら、海藻類、野菜くず、おから、カニ殻といった様々な有機物を混ぜ込んで作られています。これまで様々な堆肥を試してきましたが、この「郷の有機」と後述する「馬糞堆肥」が私たちの畑には特に合っていると感じています。
  • 土壌改良中(馬糞堆肥): 同じく大郷町にある「えにしホースパーク」さんが製造している馬糞堆肥です。牛や豚と比べて、馬は牧草を主食としているため、その糞は草由来の有機物が豊富です。しっかりと発酵させて堆肥化されており、ほぼもみがらのような状態で匂いも少なく、使い心地も非常に良いです。
  • 鈴木裕樹農園のぼかし: 近隣の鈴木有機農園で作られているオリジナルのぼかし肥料です。作り方を教えていただきながら製造のお手伝いをし、完成したものを使用しています。魚の残渣を粉末にしたもの、米ぬか、EM菌、サンゴなどが独自の割合で配合されています。
  • バイオの有機: 石巻で製造されている魚粕を主原料とした肥料です。知り合いの方から勧められて使用するようになりました。匂いを嗅いでいると、思わず魚が食べたくなるような、そんな食欲をそそる香りがします。主に追肥として適宜使用しています。
  • ミネラル資材/腐植酸資材: これらは、震災後に何度も工事が入り、植物が育ちにくい状態になってしまった土壌に主に使用しています。様々なメーカーから多様な資材が販売されているため、現在は気になる資材をいくつか試しながらデータを収集している段階です。
  • 鶏糞や豚糞の堆肥: こちらも、工事後で土壌の状態が悪い畑に、一時的に必要に応じて使用しています。植物がしっかりと根を張り、自力で成長できる土壌になるまでのサポート役です。
  • カキ殻石灰: 地元、南三陸産のカキ殻を粉砕して石灰にしたものです。こちらも工事が入った畑を中心に利用しています。土壌の酸性度を調整するだけでなく、ミネラル分も豊富に含まれており、土壌改良を目的としています。
  • 自家製の微生物資材: 私たち自身で独自に配合して作っている微生物資材です。主に納豆菌や乳酸菌を培養し、畑に散布しています。

これらの資材を、土壌分析の結果や畑の環境に合わせて使い分けています。また、予期せぬ事態が発生した場合には、これらの他にも適切な資材を検討し、使用することもあります。

マルチの活用 – 持続可能な栽培を目指して

栽培の際には、必要に応じてマルチを使用しています。一般的な黒いマルチや、近年注目されている生分解性マルチなど、状況に合わせて使い分けています。主に、雑草が生えてほしくない場所や、他の草が生えることで野菜の生育が悪くなる場合に有効です。

草生栽培や自然栽培というと、マルチの使用は否定的に捉えられることもあります。しかし、私たちは自分たちの管理能力や労力を考慮し、野菜の価格が高くなりすぎないよう、必要最低限の範囲で「継続可能」な方法を模索しています。

もちろん、マルチを使わずに手間暇をかけて野菜を育てることも可能です。しかし、そういった野菜は市場で高値で取引される傾向があります。手間暇をかけた分、それに見合った対価を得ることは当然ですが、それが一部の「高級品」として扱われてしまうことに、私たちは少し残念な気持ちを抱いています。できる限り、多くの人が「当たり前」に食べられるような価格で提供できるよう、そして私たち農家が「継続」して生産を続けられるよう、そのバランスを常に考えながら栽培に取り組んでいます。

畝間の草 – 自然の力を借りる

畝と畝の間には、あえて草を生やしています。地域の気候や土壌の環境によって、自然に生えてくる雑草を利用することもあれば、麦やソルゴーといった緑肥作物を意図的に栽培することもあります。

畝の間に生やした草は、ある程度の大きさに成長したら刈り倒し、そのまま畑に敷きます。こうすることで、敷材となり雑草の抑制効果が期待できるだけでなく、やがて分解されて畑の栄養となります。

かつては、「畑に草一本生やすな!」と言われることもありましたが、近年では、畝の間に草を生やすことのメリットが理解され始め、周囲の農家さんや関係者の方々も理解を示してくれるようになってきました。

草生栽培+α – MITU流の最適解

家庭菜園で野菜作りを始めた頃から、私は様々な栽培方法に興味を持ち、慣行栽培から有機栽培、自然栽培まで、色々な農家さんのやり方を真似してきました。その中で、私たち自身の畑に最も合っていると感じたのが、「草生栽培+α」という方法でした。

実際に草生栽培を取り入れてみて感じたメリットを簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 土の流亡を防ぐ: 仙台の沿岸部は、夏の海風や冬の西風が非常に強い地域です。しかも、昔ながらの畑の土は「海砂」に近い性質を持っています。そのため、何も生えていない畑では、強風によって砂嵐のように土が舞い上がり、流されてしまうのです。ある統計によると、風によって流される土の量は、毎年1000㎡あたり1トンにも及ぶと言われています。私が借りている畑も、以前は何も植わっていないと、風によって土が隅の方に吹き寄せられ、まるで砂丘のように堆積してしまうことが頻繁にありました。草生栽培に切り替えてからは、風による土の移動は大幅に減り、土が堆積することもなくなりました。
  • 土壌改良効果も期待できる: 震災後、塩害の影響や、土が固く締まって水はけが悪くなってしまった場所が多くありました。そういった場所に野菜を植えても、塩害によって生育が止まってしまったり、水はけの悪さが原因で病気や害虫の被害が発生したりすることがありました。しかし、畑に生えてくる草は、その時の土の状態に合わせて種類が変わるのです。例えば、水はけが悪く栄養が少ない畑にはイネ科の草が、酸性に傾いている場所にはスギナが生えやすいといった具合です。これらの草をそのまま生やしておくことで、土壌が自然に改良されていく効果が期待できます。また、緑肥作物には様々な種類があり、硬くなった土を耕してくれるような根の強い植物や、畑に栄養分(主に窒素)を供給してくれる植物もあり、これらを使い分けることで、より積極的に土壌改良に取り組むことができます。
  • 多様な生物が生息する豊かな環境: 畑で草生栽培をしていると、様々な虫や生物が集まってきます。地表だけでなく、土の中にも数え切れないほどの生き物が存在しています。そして、この多様な生物の中には、野菜に被害を与える病害虫の天敵となる虫もたくさんいるのです。そのため、草生栽培を行っている畑では、病害虫によって野菜が全滅するというような事態はほとんど起こりません。もちろん、工事直後のまだ土壌が安定していない畑は例外ですが、基本的には土が健康な状態で植物も健康に育っていると、ほとんど病気や害虫はつきません。もし、まれに弱っている株や元気のない株に病気や虫がついても、畑全体の生態系のバランスが保たれているため、被害が広がることはほとんどありません。病害虫の研究をしている先生によると、畑の中で生態系のバランスが取れていることで、仮に害虫が増えても、それを捕食する益虫も同じように増えるため、害虫被害や病気が蔓延しないとのことでした。
  • 植物由来の肥料が土に優しい: 私たちは、草生栽培や緑肥栽培で育てた草を刈り取って畑に敷いたり、必要に応じて畑に鋤き込んだりしています。植物由来の有機物を畑に入れると、土の状態が明らかに良くなります。動物性の肥料は、使い方を間違えると病害虫が発生しやすくなるなど、扱いが非常に難しい場合があります。一方、植物由来の有機物は、土の物理性(硬さなど)や生物環境を改善し、保肥力という土が栄養分を保持する力を高めてくれます。

+αの意味 – より良い野菜のために

草生栽培は、畑に生えてくる草や緑肥作物を活用する方法ですが、私たちの畑の現状では、この方法だけでは十分に野菜が育ちにくいという課題がありました。そこで、土壌分析の結果や畑の土の状態に合わせて、堆肥や魚由来の肥料などを補助的に使用しています。

ただし、堆肥や有機質肥料の使用量は、慣行栽培や有機栽培の一般的な推奨量の7〜8割以下に抑えています。これは、経験的にこのラインが病害虫が発生しにくく、野菜が健康に育つための最適な量だと考えているからです。有機農業の研究においても、肥料を投入する際には、慣行栽培などの栽培指標に示されている量の8割以下が適量であると推奨されています。

窒素分の少ない環境で野菜を育てることには、以下のようなメリットがあると考えています。

  • 抗酸化物質などの含有率が上がる
  • 環境への負荷を減らせる(地下水や河川の汚染を防げる)
  • 病害虫の被害が出にくい
  • 野菜が健康に育ちやすい
  • うま味や甘みを感じやすい(苦味成分が少ない)

これも、私たち自身が理想とする「美味しい野菜」を追求してきた結果、たどり着いた栽培方法と言えるでしょう。

そして、新たな道へ – 慣行栽培への移行

ここまで、私たちが長年取り組んできた草生栽培を中心とした野菜づくりについてご紹介してきました。しかし、大変残念ながら、現在MITUでは草生栽培を全面的にやめ、慣行栽培へと移行いたしました。

この決断は、決して容易なものではありませんでした。草生栽培は、私たちの畑にとって多くの恩恵をもたらしてくれましたが、近年、気候変動による異常気象や、それに伴う病害虫の発生パターンの変化など、これまでのやり方では安定した収穫量を確保することが難しくなってきました。

お客様に安定して美味しい野菜をお届けするため、そして私たちの農業経営を持続可能なものとするために、苦渋の決断ではありましたが、慣行栽培への移行を選択いたしました。

もちろん、慣行栽培に移行したからといって、これまで培ってきた土づくりや有機肥料の活用といった経験が無駄になるわけではありません。可能な範囲で環境に配慮した資材を選び、土壌分析に基づいた適切な管理を行うなど、これまで大切にしてきた考え方はこれからも持ち続けていきたいと考えています。

今回のブログでは、私たちの野菜づくりに対する考え方、そして草生栽培から慣行栽培へと変化してきた道のりをご紹介しました。生産者によって、それぞれの土地や環境、そして想いに合わせた様々な育て方があります。私たちMITUは、これからも「健康な土で健康な野菜を育てる」というテーマを追求し、皆様に美味しい野菜をお届けできるよう努めてまいります。

もし、私たちの畑のことに少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ一度足を運んでみてください。土のこと、野菜のこと、そして私たちの想いを直接お伝えできれば幸いです。

関連記事

  1. 野菜は洗剤で洗うべき?メリット・デメリットを徹底検証!

  2. 「腐らない野菜」は幻想?自然農法の真実と、本当に良い野菜の選び方

  3. このままでは農家がいなくなる?最新データから見る農業従事者の現状と未来…

  4. 春の息吹と共に始まる、MITUの新たな挑戦2020:土と野菜への情熱

  5. 有機野菜は本当に体に良いの?科学的根拠から安全性の疑問まで徹底解説

  6. スイートソルガムシロップの試作へ!