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はじめに:消去法から始まった、人参との歩み
「うちの畑では、人参しか育たないかもしれない」 そんな一言から始まった私と人参の物語。
12年という歳月を農業に捧げながら、私はずっと自問自答してきました。「自分は人参を通して何を成し遂げたいのか?」「この先に何があるのか?」と。
今日は、MITUが歩んできた軌跡と、今ようやく見え始めてきた「目指すべき場所」についてお話しさせてください。
1. どん底で「希望の光」になったのは、人参だった
かれこれ農業を始めて12年が過ぎました。
「人参をメインでやろうと思ったきっかけはなんですか?」と聴かれることが多いのですが、理由は結構単純でした。
「私が借りている農地で最初にまともに育ったのがナスと人参だった」からです。
マーケティングの視点から、とか、市場調査をして、とか、地元の主力作物だったから、というわけではありませんでした。
新規就農当時は瓦礫除去したあと、少量多品目の野菜を育てていました。
色々育てては見たものの、なかなか育たなかったり、中には「しょっぱい」野菜が採れたりと悪戦苦闘していました。
そんな中でも当時の取引先さんや畑に見学に来てくれた方が「いい感じですね!」といっていただいたのがナスと人参だったんです。
正直、それでもしばらくは品目を絞らずに少量多品目で栽培は続けていたんですけどね。
でも、2019年に起きた台風で壊滅的な被害を受けたあとは少しずつ少量多品目をやめ、ナスと人参+直売向けに少しの野菜と品目を絞りました。
2. 「一番」を目指すことへの違和感
ナスと人参に品目を絞り始めた頃、とある方に「人参で何を目指すの?」と聴かれたことがありました。
正直、そこまで深く考えたことがなかったため、何も答えられなかったことを今でも覚えています。
ただただ「うちの畑で唯一と言ってよいほどまともに育ったのが人参とナスだった」としか答えられなかったんです。
そこから数年、ずっと自問自答を繰り返してきました。
「宮城県で一番美味しい人参を目指そう」と考えたこともありました。
でも、美味しいの感じ方は人それぞれ。県内の人参を育てている農家さんすべてを回って味を見ることもできない。
かと競うことや、数値化できる評価を追い求めることに、どこか拭いきれない違和感(モヤモヤ)を感じていました。
それに何か自分の中でもやもやしたものを感じてしまう。
何かしらのコンテストに出品して対外的な評価を得られれば、その先になにか見えるかもしれないと考えたこともありました。
確かに外部評価を受けることはとても重要なことなのですが、1つだけうちで欠けているものがありました。
それは人参を育てるうえで「再現性が低い」ということでした。
MITUでは潅水設備がないため、水やりはお天気任せでした。
そうなると水が必要なときに水やりができず、管理も充分に行えないというとこが多々ありました。
毎年天候が違う、と言われればそうなのですが、人参の産地では潅水設備があり、ある程度「再現性のある」栽培が可能です。潅水設備があるとないとでは大きな差が生まれると感じています。
3. お客さまの声が教えてくれた「MITUらしさ」
迷いの中にいた私に光をくれたのは、実際に食べてくださる方々の声でした。
野菜を納品に行った先で消費者の方に声をかけられたり、いつもお世話になっているシェフから話を聴いたり、いろんな方から感想をいただきました。
- 「スープや蒸し野菜にすると、香りが全然違う!」
- 「スティックサラダで食べると、スッキリしてて止まらない」
- 「人参しりしりにすると、子供がパクパク食べるんです」
皆さんが教えてくれたのは、「加熱することで引き立つ、鼻に抜ける香りとスッキリした甘さ」。
私たちの畑は、仙台沿岸の「砂質」な土壌。潮風の影響もあり、厳しい環境だからこそ、この透明感のある味わいが生まれる。
それは、この土地、この気候だからこそ宿る個性かもしれないと思ったのです。
4. 突き詰めるのは「この土地との相性」
「MITUらしさ」をさらに深めるため、私は2つの挑戦を続けています。
- 土を育てる:人参が「健康に」育つための環境づくり。それぞれの作物に合う最高の居心地を追求します。
・仙台沿岸のMITUが営農している畑は砂質
・土壌分析と観察によってアミノ酸肥料やミネラル肥料を使用
なので、仙台沿岸の気候と砂質の畑で健康に育ちやすいように土を毎年どんどんよくしていきます。 - 品種を突き詰める:人参にも数多くの品種があります。糖度が高くなりやすいもの、病気に強いもの、揃いが良いもの、草勢が強めなものなどなど本当にいろんな特徴を持つ品種がたくさんあります。
その中でもうちの気候と畑に合う品種を探していきます。品種って意外と難しくて、他の生産者が「これが一番良い品種だぞ」とおすすめしてくれた品種でもうちで育てると味がいまいちだったり生育が芳しくなかったりすることがあります。どうやら畑と品種にも相性がありそうなんです。私たちの砂質の土、私たちの気候と「一番仲良くなれる品種」を1つずつ試して見つけます。
終わりに:試行錯誤という、農業の醍醐味
就農して10年以上が経ちましたが、今でも毎日が実験です。 でも、その試行錯誤こそが農業の面白さ。
私たちの畑でしか生まれない、スープにした瞬間に幸せを感じるような人参。そんな「唯一無二」の一本を皆様に届けるために。これからも人参と、そしてこの土地と向き合っていきます。





