農福連携で取り組みやすい農作業-露地編

農福連携に興味があるけど、どんな作業に取り組みやすいだろうと気になる方もいらっしゃるのではないかと思います。

今回は約5年間農福連携に取り組んできてみえてきた「取り組みやすい農作業」を取り上げていきます。少量多品目で露地野菜中心の農園での取り組みですので、他の形態に合うかどうかはわかりませんが、ご参考になればと思います。

 

*MITUでは主にB型の施設の受け入れ(主に高次脳機能障がいや知的障がいの方)を行っています。

 

 

農福連携で取り組みやすい農作業

 

畑作業

 

主に露地栽培の現場で農福連携に取り組んでいく際の前提条件は「最低限の体力がある」です。体力がないと難しい作業が多いですので、もし体力をつけることから!が目標の場合は、施設内で体力をつける何かしらのプログラムを行うか農園で研修という形で農作業に慣れながら体力をつけることをおすすめします。

 

*以下、障がいのある方を「スタッフ」と呼びます。

 

LEVEL1 石拾い、圃場片付け

 

最初に取り組みやすかったのは石拾いと圃場の片付けでした。

石拾いはあまりないケースかもしれませんが、うちの農園では石の多い圃場が多いので石拾いをしてもらえるのはすごくありがたいのです。

ここでは、石を「石」と判別できるかどうかが必要となってきます。

 

「なんだそんなの簡単じゃん」と思う方もいるかもしれませんが、土が固まってゴロゴロしていたりすると石と勘違いしてしまうケースもあります。これは障がいのあるなしに関わらず、自然に触れる機会が少ない人に多い傾向があると感じました。

 

 

圃場の片付け

 

うちの農園の場合でいうと、マルチを剥がしたり、支柱やきゅうりネットを片付けたり、作付けの終わった株を抜いたりという作業をしてもらいます。

マルチを剥がすときに土にマルチが残らないように、とか支柱を抜くときに曲げたりしないように注意しながら行ってもらいます。

ある程度役割分担をすることでスムーズに作業をすることも出来ます。

 

 

LEVEL2 草取り、防鳥紐などの設置

 

草取りは「一番簡単な作業」と施設さん側で勘違いしている場合もありますが、実は一番簡単ではありません。

ここからここまでに生えてあるもの全部抜いていいよ、みたいな感じであれば出来ると思います。ですが、畑の草取りの場合は「野菜と草の判別ができるか」、「草を抜くときに一緒に野菜の苗も抜かないように工夫できるか」、「(少し大きめの草を抜いたときに)土を付けたままにしていないか」、「集中力が持続するかどうか」といったようなことも必要になるので、そこができるかどうかがポイントになります。

 

 

防鳥紐などの設置

 

鳥よけの紐を張ったり、きゅうりネットを張る作業も比較的カンタンにできるかと思います。ある程度こちらで準備・段取りをして、支援員の方と作業の手順などを確認すればあとはOKの場合が多いです。

 

LEVEL3 根菜類収穫、収穫物の移動

 

このあたりからスタッフさんの個性で得意不得意が分かれてくるかと思います。

根菜類の収穫は農家側である程度収穫時の大きさを揃えてさえいれば、あとはスタッフさんがひたすら抜いて葉っぱ等を切り落として収穫してくれます。

ここではハサミをうまく使えるか、根菜類を収穫するときに傷つけたりせずに作業できるかを見極めるのがポイントになります。

 

また、ある程度の力と繊細さが必要になってきますが、収穫した農作物の運び出しもしてもらいます。ここは施設さんのほうで「力さえあれば大丈夫だろう」と判断されることもありますが、運び出す際に収穫物の入った箱やコンテナを手荒に扱ってしまっては収穫物が傷ついてしますので、この点うまくできるかどうかが大切になってくるかなと思います。

 

LEVEL4 根菜類や豆類種まき、植え付け

 

うちでは基本的には播種器や移植器を使用して種を撒いたり苗を植え付けるのですが、手持ちの器機で微妙に種がまきにくいとか植え付けにくいというときはスタッフさんにも手伝ってもらいます。

 

種を撒いてもらう際には、こちらで指示した種を蒔く時の深さや種の数を守れるかがポイントになります。スタッフの中には上手く種を掴めなかったり、種を土の中に深く入れすぎてしまったり、種を多く撒いてしまうこともあるので、出来るようになるまで見守りをしたり、作業を細分化して得意不得意を見ながらスタッフの得意なことをしてもらうよう配慮します。

 

また苗を植え付ける際には根を傷めないように植えられるかや植え付け時の深さを守れるかがポイントになります。

ここはうちに来てもらっているスタッフさんも練習してはいますが、なかなか難しいようです。うちでは植え付け位置に穴をあける、苗を置いてもらうといった補助的な作業をしてもらうことで補助的に作業をしてもらいます。

 

 

LEVEL5 果菜類・葉物野菜の収穫

 

果菜類や葉物野菜の収穫は難しい部類に入るのかなと考えています。

収穫可能なサイズや色の見分け方や株や収穫物を傷つけずに作業できるか(特に葉物野菜では茎を折らないようにできるか)、刃物を安全に使えるか、といったことなど気をつけないといけない点が多いですし、判断できる力が必要になってきます。

 

うちでは、精神的な病を抱えている方や引きこもりから社会復帰を目指している方に教えながら少しずつ練習をしています。

 

 

LEVEL6 野菜の管理

 

ここも勘違いをされている施設さんが多いのですが、農作物は種を撒いたら・植えたらあとは草を抜いて収穫するだけではないんです。

タイミングを見計らって間引き対象になる苗を間引いたり、果菜類では枝を整えたり葉を落としたり脇芽を取ったりと色んな管理をしないといけません。管理をしながら苗の状態を見て、健康に育っているか病気や害虫にやられそうなのか、対策したほうがいいのか否かなどといったことも判断したりします。

この管理を間違えたりすると、収穫量や品質にも影響が出てくるんです。

 

なので、個人的には管理作業が一番大事だと考えています。

 

ここでは判断する力、スピード、丁寧さ、器用さ、集中力が必要になるので、管理作業はスタッフではなく農園側のほうで行うことがほとんどです。

 

 

出荷準備

 

施設さんの中には「外作業は難しいから、中仕事(袋詰など)をしたい」という声を伺うこともあるので、中仕事についてもカンタンに取り上げていきます。

 

LEVEL1 シール貼り

 

直売やネット販売、スーパーの地場産品コーナーに出荷している農家さんの中には、自農園のオリジナルシールを貼ったり、事前に値札シールを貼って出す農家さんがいます。

うちもそうです。

 

そこで、袋にシールを貼ってもらう作業をお願いしています。

所定の位置にきれいにシールを貼れるかがポイントです。

 

 

LEVEL2 根菜類や豆類の袋詰

 

はかりの数字を読めること(あるいは針の位置がわかること)、袋にきれいに入れることができそうな場合には根菜類の袋詰をお願いしています。

うちでははかりで重さを測る人、袋に詰める人に分かれて、それぞれ得意な人にお願いしてました。

 

 

LEVEL3 果菜類の袋詰

 

根菜類の袋詰ができる人で、手の力加減が出来る人、丁寧に作業できる(手先が器用な)人には果菜類の袋詰をお願いしています。

ちょっとした力加減で収穫物を潰してしまったり、傷つけてしまうこともあります。

 

LEVEL4 袋とじ

 

野菜を入れた袋を閉じる際に「バックシーラー」なる道具を使っています。

このバックシーラー、カンタンに出来そうで意外と難しいことが最近わかりました。

 

キレイにとじれなかったり、バックシーラーで結束する際に勢いよくやりすぎて野菜を傷つけたりすることがあるようです。

 

 

LEVEL5 葉物野菜の袋詰

 

葉物野菜はちょっとした加減で茎を折ったり、傷つけてしまうくらい繊細な物が多いので、結構難しいかなと考えています。

 

うちではそもそも園主2名とも葉物野菜の袋づめが苦手なので、あまり作っていないのですが…苦笑。

 

袋詰の機械が導入されていれば、また違うかもしれません。

 

 

「農業だったら出来る」という考えは危ないかも

 

「農業だったら出来ると思うんです」という相談が来ることがありますが、農業も作業によって比較的簡単に出来るものもあれば難しいものもあります。

 

実際に体験していただくと、「工場の生産ラインのほうが単純作業が多くて楽」と判断する施設さんも少なくありません。

 

農業でも大型の施設園芸や稲作のほうについては私は専門外なので詳細はわかりませんが、露地野菜で少量多品目栽培をしているような農家では工場の生産ラインばりの作業は少ないかもというのが個人的な見解です。

 

大型の施設園芸や露地でも少品目での栽培を展開しているところでは農福連携の成功事例も多いようですので、気になる方は調べてみてくださいね。

 

農福連携をただの「流行」ではなく、農家と福祉施設が継続的に取り組めるものにしていきましょう。

関連記事

  1. 自然農法の野菜は腐らない、は本当か?

  2. 野菜とアレルギーのお話①-慣行栽培とアレルギー

  3. オーガニックの野菜は何がいいの?メリット・デメリット

  4. 有機農業は環境にやさしいのか? 

  5. 風の流れを読む

  6. 農家がいなくなる?!現場で感じる高齢化