ここ数年、ありがたいことに見学や講演、相談といった様々な依頼をいただく機会が増えました。
しかし、体力的にも時間的にも限界があり、その大半をお断りしてきました。
そんな中、今回はいつもお世話になっている方からの熱心な依頼と、「これで本当に最後にしよう」という自分の中の小さな決意のもと、農福連携に関する私の想いを話してきました。
私の新規就農の原点は、実にシンプルなものでした。農業という分野で、障害のある方々や、生きづらさを抱えている方々と一緒に土に触れ、共に何かを育みたい。
ただ、その純粋な想いだけが、細い細い糸を渡るような、頼りない私の農業を10年間支えてきたと言っても過言ではありません。
周りを見渡せば、「福祉×〇〇」といった、まるで宝石のようにキラキラとした取り組みが数多く存在し、福祉施設の数も目覚ましい勢いで増えています。
最近では、人件費高騰などの影響からか、企業が福祉事業所に様々な業務を委託するケースも増え、仕事に困らなくなってきたという話も耳にするようになりました。
制度の面でも変化が見られます。施設外就労支援に対する加算がなくなり、これからは施設の外で積極的に就労支援を行うというよりも、施設内で企業からの業務委託の仕事をこなすという流れが強まっているようです。
とにかく、障害のある方々の工賃や給料を上げていこう!という大きな潮流の中で、農福連携のあり方も今後ますます変化していくのだろうと感じています。
そんなふうに、時代がどんどん変わっていく中で、自分自身は一体どのような道を歩んでいこうか。
そう考えた時、私の心に浮かんだのは、10年前と変わらず、マイペースに私の畑に来てくれる人たちと、肩を並べて楽しく農業をしていきたい、というささやかな願いだけでした。
立派な施設を建てて大勢の人たちの仕事の場を作るとか、福祉事業所を立ち上げて自分たち自身で本格的に就労支援を行うとか、積極的に障害のある方々を雇用していく、といった、世間一般的に「キラキラしている」と思われるような夢は、正直なところ、私の心には湧いてこないのです。
キラキラしたこと、イケイケな取り組みは、周りの素晴らしい福祉施設さんや、意欲的な農家さんたちにお任せすればいい。
私は、自分の手の届く範囲で、障害のある方々や、いわゆるグレーゾーンと呼ばれる生きづらさを抱えている人たちの背中を、ほんの少しだけそっと押す。それが、私にとってちょうどいい支援のカタチなのだと思っています。
農業を生業としていくつもりなので、私の中では、福祉的な要素はあくまで「副次的な」もの。
一緒に畑で作業したり、ある程度の作業をお任せして、その人が本人なりに夢中になったり、楽しそうに作業に取り組んでいれば、それで十分なのです。
「うち(私の畑)に来るときは、本当に意欲的だし、まるで別人のようにイキイキしているんですよね」と、支援者の方からそんな言葉を聞ければ、それ以上の喜びはありません。
もちろん、「ガンガン稼ぎたい」という強い意欲を持っている施設さんや、「近い将来、一般企業や農業分野で正社員として働けるようになりたい」という熱い想いを持っている方には、それぞれの目標に合わせて、できる限りの対応はさせていただいています。
「キラキラ」しない、私らしい農福連携のあり方
大規模な施設を建て、多くの雇用を生み出すことは素晴らしいことだと思います。
しかし、それが私自身のやりたいことかと言われれば、正直なところ、そうではありません。
私は、自分の目の届く範囲で、本当に必要としている人たちに、無理のない形で関わっていきたい。
それが、私が10年間続けてきた中で見つけた、私らしい農福連携のあり方なのです。
農業は私の生業であり、生活の基盤です。その上で、共に働く人たちが少しでも喜びを感じ、社会との繋がりを持つきっかけになれば、それ以上の幸せはありません。
数字や効率ばかりを追い求めるのではなく、共に土に触れ、作物が育つ喜びを分かち合う。そんな、ささやかだけれど温かい時間を大切にしていきたいと思っています。
私の畑に来てくれる人たちが、普段の生活の中ではなかなか味わえないような、土の匂いや作物の成長を感じ、夢中になって作業に取り組んでくれる。
その姿を見ることが、私にとって何よりの生きがいであり幸せです。
「ここでなら、自分も何かできるかもしれない」と感じてくれる人が一人でもいれば、私の農福連携は意味のあるものだと感じています。
多様なニーズへの対応と今後の展望
もちろん、農福連携に関わる方々のニーズは様々です。
「とにかく工賃を稼ぎたい」という方もいれば、「将来は一般企業で働きたいから、そのためのステップとして農業を経験したい」という方もいます。
それぞれの目標や状況に合わせて、できる限りのサポートをすることも、私の大切な役割だと考えています。
ただ、私自身のペースを大きく崩してまで、大規模な事業展開を目指すつもりはありません。
細くても長く、そして無理なく続けていくこと。それが、私にとって最も持続可能な、そして私らしい社会貢献の形だと信じているからです。
これからも、時代の変化に流されることなく、自分のペースを守りながら、私の小さな畑で、必要としてくれる人たちと共に土に触れ、作物を育てる喜びを分かち合っていきたい。それが、私がこれからも変わらず持ち続けていたい、ささやかな願いです。
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