【自己流は事故る】プライドを手放し、ありのままを受け入れる勇気

久しぶりに顔を合わせた農家仲間との会話の糸口は、意外なものでした。
「弱みを見せる」という、かつての私がどこか避けてきたテーマ。
しかし、振り返ってみると、SNSなどで自分の失敗や弱点を比較的オープンに語るようになったのは、農業を始めてからしばらく経ってからのことでした。

過去の私は、今よりもずっと棘のある人間でした。

高いプライドにがんじがらめにされ、強い承認欲求に突き動かされていた。他人を批判することも厭わない、今思い返すと顔を覆いたくなるような黒歴史の持ち主でした。
プライドが高く、承認欲求が強いということは、自己成長の大きな妨げとなり、ある意味で「本当の自分」を見失っていた状態だったのだと思います。

農業という未知の世界に飛び込んでからは、思うようにいかないことばかり。収穫量の不安定さ、天候不順、病害虫の発生…その度に、苛立ちと焦燥感に苛まれました。

プライドが高いがゆえに視野が狭くなる

私が就農した当初の戦略は、今考えると無謀そのものでした。
「少量多品目野菜」「無農薬栽培」、そして「ネット通販」という組み合わせ。
一体何がそうさせたのか、今となっては記憶も曖昧ですが、当時は有機農業ブームで、本屋さんの農業コーナーには有機農業や自然農法の本が溢れていました。
それらを片っ端から読んでいるうちに、私の視野はどんどん狭くなっていったのです。

気づけば、「慣行農法(化学肥料や化学農薬も使用する一般的な栽培方法)=悪」という極端な思考に陥っていました。有機農業や自然農法こそが正義であり、それ以外の方法は全て間違っているとさえ考えていたのです。

同じような考えで就農した人たちの多くは、生計を立てることができずに農業から離れていきました。
ごく一部の人は、有機栽培や自然栽培から慣行農法へと栽培方法をシフトしていきましたが、ほとんどは志半ばで夢を諦めていったのです。

それでも私は、「少量多品目+無農薬でいく!」という初期の考え方に固執し続けました。まるで、意地を張るように、頑なに自分の方向性を変えようとしなかったのです。
当然のことながら、売上は思うように伸びず、金融機関から借り入れた融資は雪だるま式に膨らみ、まさに自転車操業の状態。
そんな状況に追い打ちをかけるように、2018年には東日本台風が襲い、私の大切な圃場は濁流に飲み込まれてしまいました。

資金は底をつきかけ、追加融資や返済のリスケジュールを金融機関に依頼するも、全て断られてしまいました。まさに、八方塞がり。
毎日、深い絶望を感じながらも、「何か他に方法はないのか」と、藁にもすがる思いで様々な人にアドバイスを請う日々を送りました。

ありのままを受け入れる

どん底の中で、私は今の師匠と出会いました。その時、師から最初に言われた言葉は、今でも鮮明に覚えています。
「自己流は事故る」「今の現状をありのままにさらけ出し、受け入れ、そして意識を変えよう」。

師の言葉は、私の胸に深く突き刺さりました。「このままでは本当にまずい」。そう強く感じ、私は自分を一度「無」にしようと決意しました。それは、仏教でいう「無為自然」や「無私」といった感覚に近いかもしれません。

実は、私が交通事故の後遺症で苦しみ、文字通り身動きが取れない状態だった時、心の支えとなったのが老子の本でした。
その老子の教えに「無為自然」や「無私」がありました。
しかし、ここ数年、その大切な教えをすっかり忘れたまま過ごしていたことに気づかされました。

ありのままの現実を受け入れ、その受け入れたことを次の行動に活かす。
少しずつ、そんな風に生き方を変えてきたことで、不思議と自分自身が楽になり、肩の力が抜け、ありのままの自分を発信する勇気も湧いてきました。

農福連携で出会う方にも

農福連携の現場で様々な福祉施設の方々と出会う中で、過去の私と同じように「自己流」にこだわり、高いプライドを持ち、周りの声に耳を傾けず、現状を打破できない状態に陥っている方を見かけることがあります。
残念ながら、そういった方にどんなに丁寧なアドバイスをしても、なかなか心に響くことは少なく、むしろ敵意を持たれてしまうことさえあります。

痛感するのは、変えられるのは他人ではなく、自分自身だけだということです。
自分の弱さや失敗をさらけ出し、それを受け入れる勇気を持つこと。
そうすることで初めて、新たな視点が開かれ、次の一歩を踏み出すことができるのだと、私は信じています。

まだまだ、人として、農家として、成長できていないことの方が多いと自覚しています。
しかし、これからもありのままの自分を受け止め、その等身大の自分から学び、成長していけるように、一歩ずつ前に進んでいこうと思っています。

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