有機野菜は本当に安全?肥料の裏側に潜む真実と賢い選び方

「有機野菜」と聞いて、あなたはどんなイメージを抱きますか?

「安全で安心」「味が濃くて美味しい」「自然な甘さがある」といったポジティブな印象を持つ方もいれば、「値段が高い」「美味しくない」「むしろ危険だと聞いたことがある」といったネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。

インターネット上では、「有機野菜は本当に安全なのか?それとも危険なのか?」という議論が度々繰り広げられていますよね。私たちも、イベントで自慢の野菜を販売している際に、「無農薬とか有機肥料で育てた野菜って、逆に危なくないの?」とお客様から質問されることがあります。

そこで今回のブログでは、「日本の有機野菜は本当に危ないのか?!」という疑問について、肥料という側面に焦点を当てて深く掘り下げていきたいと思います。

*記事作成時の2019年は栽培期間中、化学肥料や化学農薬は使用しておりませんでした。2025年現在は、化学肥料も化学農薬も使用する方法に切り替えています。

有機JASの野菜を育てるということ

日本で「有機」と表示するためには、国の定める有機JAS規格という認証を取得する必要があります。この有機JAS規格に適合した栽培方法では、「天然物質ないしは化学的に処理していない天然物質に由来するもの」として、有機JAS規格に適合した肥料を使用することが義務付けられています。

具体的にどのような肥料が使われるのでしょうか。例えば、家畜の糞尿を時間をかけて発酵させた堆肥、水産加工施設から排出される未利用資源である魚かす、自然界に存在する天然鉱石、そして草木を燃焼させて得られる草木灰などが挙げられます。これらの肥料は、化学的に合成された肥料とは異なり、自然の恵みを活かしたものが中心となります。

有機JAS規格が抱える可能性のある問題点

一見すると、自然由来の肥料を使った有機野菜は安全であるというイメージを持ちやすいかもしれません。しかし、有機JAS規格に基づいて野菜を栽培する上で、いくつかの潜在的な問題点が指摘されており、これらの点が「有機野菜=危ない」というイメージを持つ人がいる要因となっているようです。

1.圃場(田畑)に入れる肥料の量に明確な基準がない

驚くべきことに、海外の多くのオーガニック認証制度では、肥料(特に家畜糞堆肥)の施肥量に関して明確な基準が設けられているのに対し、日本の有機JAS規格には、現時点(2025年4月現在)で全国共通の施肥基準が存在しません。

もちろん、有機JAS規格とは別に、各都道府県が独自に「認証制度」を設け、その中で施肥量の基準を定めているケースもあります。

例えば、私たちMITUが農業を営んでいる宮城県には、「みやぎの環境にやさしい農産物認証・表示制度」という県独自の認証制度があります。この制度では、農薬や化学肥料の使用量を慣行栽培の5割以下に抑えた栽培方法に対して「特別農産物」としての認証を与えています。

JAS規格で統一された基準がないこと、そして有機農業の取り組みが始まった初期には、まだ栽培技術が確立されておらず、肥料を多めに投入する傾向があったことなどが影響し、有機JAS認証を取得していない有機栽培農家の中にも、肥料を過剰に使用してしまっているケースが少なからず見られるのが現状です。

ある有機栽培の実践報告では、とある有機栽培農家が、野菜を植え付ける前に施す元肥として、発酵鶏糞を10a(約1000平方メートル)あたり4トンも投入していると語っていました。
発酵鶏糞の種類によって成分のばらつきはありますが、野菜の生育に不可欠な栄養素の一つである「窒素」の量をざっくりと計算すると、10aあたり約80〜200kgにも達する可能性があります。

農業に関わりのない方には、この数字がどれほどの量なのか想像しにくいかもしれません。そこで、一般的な慣行栽培における施肥基準と比較してみましょう。慣行栽培では、畑に入れる窒素の量は、栽培期間全体を通して10〜50kg/10a程度が目安とされています。元肥に限って見ると、その量はさらに少なく、10〜25kg/10a程度となるのが一般的です(もちろん、畑の土壌の性質や環境、栽培する作物の種類によって施肥量は変動します)。

この比較からも明らかなように、有機栽培において過剰な量の肥料が投入されている場合があるのです。肥料の過剰な投入は、農産物中の硝酸態窒素などを過剰に蓄積させる原因となり、野菜のえぐみや苦味を増したり、ひいては土壌や地下水の汚染といった環境問題にも繋がる可能性があるため、懸念されています。

2.家畜糞堆肥や油かすといった有機肥料の原料を辿ると…

有機農業を含め、堆肥や有機肥料を使用すること自体に危険性があるのではないか、という意見も存在します。その背景には、家畜が遺伝子組み換え作物を飼料として摂取している可能性、そして遺伝子組み換えの菜種から採取された後の菜種粕が肥料として利用される可能性があるという懸念があります。

世界のオーガニック認証制度では、有機栽培で使用する家畜の糞堆肥(厩肥)について、遺伝子組み換え作物を飼料として与えられた家畜由来のものは原則として禁止されています。

しかし、日本の現状では、家畜の飼料には遺伝子組み換え表示の義務がなく、消費者が飼料の情報を確認することは困難です。そのため、遺伝子組み換え作物を食べた家畜の糞尿から作られた堆肥が、有機栽培の畑で使用されている可能性は否定できません。

また、油かす(植物油を搾った後に残る粕)についても、「有機農産物の日本農林規格」においては、「その原料の生産段階において組替えDNA技術が用いられていない資材に該当するものの入手が困難である場合には、当分の間、同項の規定にかかわらず、この資材に該当する資材以外のものをしようすることができる」と明記されており、遺伝子組み換え作物由来の油かすの使用が例外的に認められています。

遺伝子組み換え作物由来の肥料が、土壌やそこで育つ野菜にどのような影響を与えるのかについては、まだ科学的に完全に解明されているわけではありません。しかし、消費者の間には、未知のリスクに対する不安感が根強く存在します。

これらの理由から、日本の有機認証においては、肥料の投入量に関する明確な基準が存在しないこと、そして遺伝子組み換え作物を飼料とした家畜の糞堆肥や、遺伝子組み換え作物由来の油かすが使用されている可能性があることから、「有機野菜=危ない」と考える人がいるのは、ある意味で理解できると言えるでしょう。

海外の有機認証制度と比較してみると

日本の有機認証制度には、いくつかの課題があることが分かりました。では、オーガニック先進国である海外の認証制度では、これらの点についてどのような基準が設けられているのでしょうか。

ここでは、ヨーロッパにおける有機農産物の基準を定めるEU(欧州連合)の認証制度を例に、先ほど挙げた2つのポイントについて見ていきましょう。

EU認証における家畜糞堆肥の基準

EUの有機認証制度では、動物性肥料の使用に関して、窒素の量が1ヘクタールあたり170kgを上限と明確に定められています。1ヘクタールは100アールですので、これは10アールあたりに換算すると、窒素量の上限はわずか17kgとなります。先ほど例に挙げた、発酵鶏糞を2トンも投入していた日本の有機栽培農家と比較すると、その差は歴然です。

また、使用できる肥料についても、自然由来の成分を含む肥料と、EUが認める肥料リストに掲載されているものに限定されており、工業的な集約畜産に由来する肥料は原則として禁止されています。

「工業的な集約畜産」という言葉は少しイメージしにくいかもしれませんが、日本の一般的な養鶏のように、鶏を狭いケージに閉じ込め、ほとんど身動きが取れないような状態で飼育する方法がこれに該当すると考えられます。

つまり、EUの有機認証制度では、平飼いや放牧など、動物福祉に配慮した非工業的な畜産業から排出された糞尿を堆肥化したもののみが使用可能であり、遺伝子組み換え作物を飼料として与えられた家畜の糞堆肥も明確に禁止されています。

「〇〇農法」という枠にとらわれずに賢く野菜を選ぶ

日本の有機JAS認証制度では、動物由来の堆肥(糞堆肥など)における肥料成分の上限が定められておらず、また、その家畜が遺伝子組み換え作物を摂取していたかどうかについても明確な情報が開示されていません。肥料(特に窒素成分)を過剰に使用した野菜は、硝酸態窒素が多くなり、えぐみや苦味が増すだけでなく、土壌や地下水の汚染といった環境への悪影響も懸念されます。

有機農業の研究に携わる団体の中には、野菜の栽培における窒素の投入量を、従来の慣行栽培の基準の7〜8割程度に抑えることを推奨しているところもあります。

大切なのは、「有機農法」という栽培方法の名称にこだわりすぎるのではなく、「どのような考え方で、どのように育てられた野菜なのか」という背景をしっかりと確認しながら野菜を選ぶという視点を持つことかもしれません。

近年では、スーパーの野菜コーナーでも、QRコードを読み取ることで、その野菜を育てた生産者の情報や栽培履歴を確認できるシステムが導入されるようになってきました。

私たちMITUでも、取引のあるスーパーさんでは生産履歴を公開していますし、気になる方にはホームページなどからお気軽にお問い合わせいただければ、正直にお答えしています(笑)。

「有機野菜だから絶対に安全」と盲信するのではなく、それぞれの認証制度や生産者の情報をしっかりと理解した上で、賢く野菜を選ぶことが、私たち消費者に求められているのではないでしょうか。

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