地力のない畑からの挑戦:失敗と試行錯誤から見えてきた土作り

農園MITUの佐藤です。
皆さんは「地力」という言葉をご存知でしょうか? 地力とは、その畑が本来持っている農作物を育てる生産能力のことです。
地力が低い畑では作物はなかなか育たず、逆に地力が高い畑では豊かに育ちます。

耕作放棄地や、新たに土が盛られた土地などは地力が低いことが多く、作物が育つようになるまでには長い年月を要することがあります。

今回のブログでは、地力のない畑で自然農園MITUが試行錯誤を繰り返してきた経験から見えてきた「土作り」について、詳しくお話したいと思います。
2020年現在MITUでどのように土作りに取り組んでいるのか、そしてもし私たちと同じような悩みを抱え、途方に暮れている方がいらっしゃれば、少しでも参考になれば幸いです。

1.地力のない畑で立ち尽くす

2017年、自然農園MITUが設立された頃、私たちの畑の約8割で地域の「ほ場整備事業」が行われました。
この事業は、東日本大震災による甚大な被害からの復興と、農地の集約化、塩害を受けやすい圃場の改善、そして地盤沈下した土地を水没しにくくすることなどを目的としていたと聞いています。

整備事業によって、私たちの畑には宮城県内の山から採取された山土が約1メートルの高さまで盛られました。

しかし、地域や畑によって盛られた土の種類は異なり、元々農地だった場所から土を持ってきたところもあれば、石が多く栄養分がほとんどない山土が入ったところもありました。

残念ながら、MITUの畑は後者のパターンでした。工事が完了した翌年、畑にはほとんど草も生えないほどでした。土壌の養分を簡易的に測定する機械で分析した結果が以下の図です。

 


この図が示すように、ほとんどの養分が測定器の下限値を下回っており、土壌に栄養分がほとんどないことが明らかになりました。
さらに、重機によって踏み固められた土壌は水はけが非常に悪く、ひどい場所では雨が降ると2週間ほど畑がぬかるんだままでした。

工事前には、地元の世話役の農家さんから「工事が入ってもすぐに作付けができるような土を入れてもらうよう交渉した」と聞いていたのですが、工事が終わった後には、経験豊富な農家の大先輩と二人で畑に立ち尽くし、「これはまともに土が育つまでに5年、10年はかかるだろうな」と落胆したのを今でも鮮明に覚えています。

しかし、立ち尽くしていても何も始まりません。ここから、どのようにしてこの土地を育てていくかという挑戦が始まったのです。
会社を立ち上げたばかりで、地力のない畑での野菜作りは収穫量を上げにくく、経営も不安定になることが予想されました。
そこで私たちは、「死なない程度に生き延びながら、少しずつ土を育てていく」という長期的な計画を立てることにしました。

一般的に、農業指導員や普及員、専門家のアドバイスによると、地力のない圃場が収穫できるレベルの地力を持つまでには、5〜10年の歳月がかかると言われています。
それほど、土を育てるということは時間と根気が必要な作業なのです。

2.地力のない畑での挑戦

地力のない畑での挑戦ということで、私たちは思いつく限りのこと、そして調べられる限りのことを紙に書き出し、一つひとつ実践していきました。

専門家の方々からもアドバイスをいただきましたが、その多くは「堆肥を多めに投入し、化学肥料と農薬をしっかりと使って5〜10年続ければ、良い作物が採れるようになる」というものでした。
しかし、立ち上げたばかりで資金も潤沢ではない新規就農者にとって、5年も10年も収穫が少ない状態に耐え続ける余裕はありません。
私たちは、もっと持続可能で、かつ早期に効果が見込める方法はないかと模索しました。

詳細をすべて書くとこのブログには収まりきらないため今回は割愛しますが、私たちは以下のような様々な方法を組み合わせながら土作りを試みました。

  • 家畜の堆肥を大量に投入する(地元の農家さんの中には、通常1〜2トン程度の堆肥投入量を、土壌改良のために10〜15トンも投入した例もあったそうです)。
  • 堆肥と同様の効果があると言われる「腐植酸」資材を投入する。
  • ミネラル肥料を投入する。
  • ボカシ肥料を多めに投入する。
  • 堆肥と有機化成肥料をバランス良く組み合わせて栽培してみる。
  • わら堆肥を大量に作り、投入する。
  • 緑肥(ソルガムや大麦など)を何度も栽培し、土に鋤き込む。
  • 緑肥が枯れた後にも、再度鋤き込む。
  • 肥料屋さんが勧めてくる「魔法の肥料・堆肥」を試してみる。

これらの挑戦の過程で、長雨や日照り、台風といった様々な異常気象にも見舞われ、MITUとして何度も経営の危機に瀕しましたが、その中で少しずつ、土作りに関する重要なヒントが見えてきました。

3.見えかけてきた土作り

数々の失敗を繰り返す中で、私たち農園MITUならではの土作りが少しずつ形になってきました。
ここでいう「MITUなり」とは、「できる限り化学農薬を使わず、健康な野菜を育てる」ための土作りという意味です。

堆肥は植物由来のものを多めに

地力のない畑を改良していくためには、植物由来の成分を多く含む堆肥が良いことがわかりました。
例えば、バーク堆肥のような木質系のものよりも、稲わらやソルガム、大麦といったイネ科植物をベースにした堆肥の方が効果的でした。
もし自家製堆肥を作るのが難しい場合は、イネ科の植物を枯れるまで育て、それを粉砕して、そこに少量の家畜堆肥を混ぜるだけでも、ある程度の効果は期待できます。

詳しいメカニズムはここでは割愛しますが、植物由来の有機物を少し多めに投入することが、地力のない畑の改良には有効であるという感触を得ています。

ちなみに、家畜系の堆肥を大量に投入した場合も土壌改良の効果は見られましたが、土壌の栄養バランスが崩れやすく、病害虫が発生しやすいと感じました。
どの家畜の堆肥を使うかによっても影響は異なりますが、私たちが購入した牛糞ともみ殻を混ぜた堆肥では、マンガンや銅、亜鉛の数値が高くなる傾向が見られました。

家畜ふん堆肥に含まれる重金属については、農林水産省などの研究報告にも詳細なデータが掲載されています。
家畜の飼料に含まれる重金属の一部は、家畜に吸収されずに糞尿として排出されることがあり、堆肥中に高濃度で含まれる場合もあるため、大量投入や連用には注意が必要と言われています。

栄養バランスを整える

MITUでは簡易的な土壌分析器を使用し、定期的に土壌の栄養状態を分析し、バランスが保たれるように管理しています。
この考え方のベースとなっているのは、「BLOF理論」と呼ばれる有機栽培技術です。

BLOF理論は、①アミノ酸、②ミネラル、③土の団粒構造の3つの要素に着目し、科学的かつ論理的に農業を行うための技術体系です。私たちはこの理論の一部を取り入れています。

特に、ミネラル系の養分はすぐに不足したり、逆に過剰になったりすることがあり、これらのバランスが崩れると植物が病害虫に侵されやすくなります。
そのため、こまめに土壌の状態を観察し、必要に応じて養分を補給するように心がけています。

アミノ酸肥料を使う

BLOF理論にも提唱されていますが、私たちは主に「アミノ酸」肥料を使用しています。
市場には様々な種類のアミノ酸肥料がありますが、MITUでは魚の煮汁を濃縮し、米ぬかと配合した自家製のアミノ酸肥料を使用しています。

アミノ酸肥料の利点は、土壌に溶け出したアミノ酸を植物が直接吸収できるため、植物が効率よく栄養を吸収し、生育が促進されやすくなることです。

栽培期間中は草を生やす

すべての作物ではありませんが、一部の作物では、株元だけをマルチで覆い草が生えないようにし、その周りはあえて草を生やしたままにしています。

野菜の生育を妨げない程度に草を刈り、刈った草はその場に敷いておくことで、夏場の乾燥を防いだり、土壌微生物の住処を確保したり、害虫の天敵となる昆虫の生息場所を作ったりする効果を期待しています。また、枯れた草は最終的に土に還り、有機物となって土壌改良に貢献すると考えています。

微生物の活用

MITUでは、食品から納豆菌や酵母菌を採取し、培養して増やしています。これらの微生物は、わら堆肥を作る際に添加したり、植物に直接かけたりして利用します。

栽培する作物にもよりますが、わら堆肥に微生物を添加し、そこで増殖させることで、土壌の微生物バランスが整い、病害虫が発生しにくい環境を作ることができると考えています。

定期的にソルガムを投入

数年に一度、畑にソルガムを栽培し、それを土に鋤き込むか、堆肥として利用しています。
MITUでは堆肥を作る時間的な余裕がないため、鋤き込むことが多いのですが、ソルガムを栽培して畑に投入することにはいくつかの大きなメリットがあります。

一つ目は、大量の有機物(主にセルロース)を畑に供給できることです。
鋤き込むタイミングや播種量にもよりますが、私たちの場合、鋤き込む前の段階で概算4トン以上のソルガムを畑に投入することになります。
約半年間畑を占有するため、その間他の野菜は栽培できませんが、鋤き込んで半年ほど寝かせると、土がふかふかになります。

二つ目は、耕盤を破壊してくれることです。トラクターなどで畑を耕作していると、どうしても耕盤と呼ばれる硬い土の層ができてしまいます。
耕盤が存在すると、植物の根が深く張ることができず、水はけが悪くなり、病気などが発生しやすい環境になります。
ソルガムは1メートル以上に根を伸ばし、この耕盤を物理的に破壊してくれるのです。

これらの6つの方法を組み合わせることで、地力のなかった畑でも、2年目くらいから少しずつ野菜が収穫できるようになってきました。

もし、「そんなことは当たり前だ」と既に理解されていた方がいらっしゃったら、申し訳ありません。
新規就農の素人である私たちにとって、これらのことを理解し、実践できるようになるまでには、長い年月がかかりました。

地力のない畑に有機物が必要な理由土壌の物理性、化学性、生物性の改善

有機物は、土壌の物理性、化学性、生物性の3つの側面を総合的に改善する上で不可欠な役割を果たします。

  • 物理性の改善: 有機物は土壌の団粒構造を形成するのを助けます。団粒構造が発達した土壌は、通気性や保水性、排水性が向上し、植物の根の生育に適した環境を提供します。また、有機物は土壌の硬化を防ぎ、耕うん作業を容易にする効果もあります。

  • 化学性の改善: 有機物は、植物に必要な窒素、リン酸、カリウムなどの養分をゆっくりと供給する緩効性肥料としての役割を果たします。また、有機物が分解される過程で生成される腐植は、土壌の陽イオン交換容量(CEC)を高め、肥料成分を保持する能力を高めます。これにより、肥料の流出を防ぎ、植物が効率的に養分を利用できるようになります。

  • 生物性の改善: 有機物は、土壌微生物の多様性と活動を促進するエネルギー源となります。土壌微生物は、有機物の分解、養分の循環、病害の抑制など、植物の生育に不可欠な役割を果たします。特に、菌類や細菌は、植物の根と共生し、養分吸収を助ける菌根を形成することが知られています。

地力のない畑における有機物の重要性

地力のない畑、特に工事によって山土が盛られたような土壌は、これらの物理性、化学性、生物性のバランスが大きく崩れています。
有機物の含有量が極めて低いため、土壌構造は脆弱で、養分保持能力も低く、微生物の活動も不活発です。

このような土壌に有機物を投入することは、以下のような効果が期待できます。

  1. 団粒構造の形成促進: 有機物の供給は、土壌粒子を結合させる有機物のり(多糖類など)の生成を促し、団粒構造の発達を助けます。これにより、水や空気の通り道が確保され、根の伸長が促進されます。

  2. 養分供給と保持: 有機物は分解される過程で、植物が利用可能な無機養分を徐々に放出します。また、腐植はCECを高め、これらの養分を保持し、植物への安定的な供給を可能にします。

  3. 微生物活性の向上: 有機物は土壌微生物の餌となり、その多様性と活動を活発化させます。活発な微生物群は、養分の循環を促進し、病原菌の抑制にもつながります。

このように、有機物は単に養分を供給するだけでなく、土壌全体の機能を高め、植物が生育しやすい環境を整える上で非常に重要な役割を果たします。
地力のない畑においては、特に初期段階で積極的に有機物を投入し、土壌の基礎体力を高めることが、持続的な農業を営むための重要なステップとなります。

4.これからの課題

失敗を繰り返しながらも、私たちMITUなりに見えてきた土作り。
土壌をふかふかにし、栄養バランスを整え、適切な管理を行うことで、地力がなかった畑でも少しずつ野菜を育てることができるようになりました。

しかし、野菜を育てる上での課題はまだまだあります。その中でも、現在MITUにとって最も大きな課題は「水の確保」です。

震災前までは、畑の脇に農業用水路が通り、バルブをひねれば水を使うことができた場所も多かったのですが、震災後の工事でそれらは全面的に撤去されました。
そのため、現在は灌漑設備が全くない状態です。

地力を高めても、水がなければ植物は栄養を吸収することができませんし、十分に栄養を吸収できない植物は病害虫に弱くなります。

近年、仙台の海側では冬から初夏(梅雨入り前)にかけて雨が降ることが少なくなってきました。
統計上は例年通りの降水量でも、一日に一ヶ月分の雨がまとめて降ることがあり、畑が乾燥してカチカチになりやすいのです。

当初は井戸を掘ることも検討しましたが、圃場整備事業が完了するまで井戸を掘ることができないこと、借地が多く掘った後に農地を返却する可能性も大きいこと、沿岸地域であるため塩分が含まれている可能性があることなどの理由から、現在は井戸の掘削を見送っています。

今後、どのように灌漑設備を導入していくかは、真剣に考えていかなければならない課題です。

5.農業を始めるために、農地ありきか人ありきか

ほとんど地力のない畑から土作りをしていくという経験は、なかなかできるものではないかもしれません。
私自身、それまで代々野菜を育ててきた祖母の畑で野菜作りをしてきたため、先祖代々土を作り上げてきたことのありがたみを改めて感じました。

異常気象や昨年の台風19号など、農業を辞めるかどうかを本気で考えたことが2度ほどありました。

そんな時、「今の農地でなくてもいいじゃん、経験さえあればどこでもできるよ」と先輩や知人からもらった言葉が、私の心に深く響きました。

それまでの私は、「農業は農地があってこそ」という考えに縛られていました。
確かに、農地がなければ農業はできません。しかし、農地は探そうと思えば、全国、全世界どこにでもあるのです。
やろうと思えば、どこでもできる。そのことに改めて気づかされました。

自分が数々の失敗を経験し、試行錯誤を繰り返してきた経験は、かけがえのない自分の資産です。
この経験を積み重ねていけば、たとえどこで農業を始めたとしても、きっと乗り越えていけるだろうと思えるようになりました。

これからも、当面続くと予想される異常気象、新型コロナウイルスの再流行、そして農業従事者の減少と高齢化といった多くの困難が待ち受けているかもしれません。

しかし、これまで培ってきた経験を糧に、これからも健康に育った美味しい野菜を届けられるよう、日々精進していきたいと思います。地力のない畑からの挑戦は、まだまだ続きます。

 

 

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