地力のない畑での挑戦から見えてきたもの−MITUの失敗から

自然農園MITUの佐藤です。

あなたは地力という言葉をご存知ですか?

地力とは「その畑で農産物を育てる生産力」を意味します。

地力が低ければ農作物は育ちにくいですし、高ければ育ちます。

 

耕作放棄地や新たに盛り土等の工事が入った土地は地力が低いことが多く、地力を上げるまでに時間がかかることがあります。

 

今回のブログでは、地力のない畑でMITUが挑戦⇒失敗を繰り返してきたことから見えてきた「土つくり」のお話をしていきます。

MITUで今どんな風に土作りに挑戦しているのか、またもし私達と同じ悩みを抱えて途方に暮れる方がいたら、参考の1つにしてもらえたらと思います。

 

 

1.地力のない畑で立ち尽くす

 

2017年、自然農園MITUが立ち上がったタイミングで地域の「ほ場整備事業」の工事が行われました。

この工事は東日本大震災の甚大な被害を受け、これから農地集約と塩害の出やすい圃場の改善、(地盤沈下していることから)水没しにくい圃場作りなどを目的として行われたと聴いています。

MITUでは借り受けている畑の約8割でほ場整備事業が入りました。宮城県内のどこかの山の山土が高さ約1mほど盛土されました。

 

地域や畑によって盛土した土が違っていたため、元々農地だったところから土を盛ってきて盛土したところもあれば、石が多く栄養分もない山土が入ったところもありました。

 

MITUの畑は総じて後者で、工事が終了した1年目は草も生えないほどでした。

土壌の養分を簡易的に測定する器機を使用して分析した結果が下の図です。

 

ほどんどの養分が下限値を下回っていて、ほとんど栄養分がないことがわかります。

 

また、重機で踏み固められていたので水はけが悪く、ひどいところだと雨が降ると2週間くらいは畑がズボズボの状態でした。

 

 

工事前の時点では地元の世話役の農家さんから「工事が入ってもすぐに作付け出来るような土を入れてもらうよう交渉した」と聴いていたのですが、工事が終わったあとには「こりゃまともに土が育つまでに5年、10年はかかるな」と農家の大先輩と立ち尽くした記憶があります(笑)

 

立ち尽くしても何も始まらないので、ここからどうやって土を育てていくかという挑戦が始まりました。

ちょうど会社も立ち上げたばかりで地力のない畑での野菜つくりでは野菜の収穫量が上がりにくく経営も不安定であることが推測できたので、死なない程度に生き延びながら少しずつ土を育てていくという企みです。

 

一般的(農業の指導員や普及員、専門家のアドバイス)には、地力のない圃場をきちんとした収穫ができるくらいの地力ある圃場にするには、5〜10年かかると言われています。

それくらい土を育てていくには時間がかかるということです。

 

2.地力のない畑での挑戦

 

地力のない畑での挑戦ということで、思いつく限り&調べられる限りのことを紙に書き出して1つ1つ実践していきました。

 

専門家の方々からもアドバイスはもらいましたが「堆肥を多めに入れて、化学肥料と農薬たっぷり使って5〜10年やればいいもの採れるようになるよ」というアドバイスをもらいました。

が、立ち上げたばかりでお金もない新規就農者が5年も10年も我慢して続けられるほどの余裕はないので、もっと良い方法はないかと思ったのです。

 

詳細は書くとこのブログには収まりきらないので今回は割愛しますが下記のようなことを色々と組み合わせながら挑戦していきました。

 

・家畜の堆肥を多く入れる(地元の他の農家さんの中には通常1〜2tの堆肥を入れるところを10〜15t入れて土壌改良を図ったそうです)

・堆肥と同じ効果があると言われる「腐植酸」資材なる資材の投入

・ミネラル肥料の投入

・ボカシ肥料を多く入れる

・堆肥と有機化成肥料を上手く組み合わせて育ててみる

・わら堆肥を大量に作って投入 

・緑肥(ソルガムや大麦)をすき込みまくる

・ソルガムや大麦が枯れたあとにすき込みまくる

・肥料屋さんがおすすめしてくる「魔法の肥料・堆肥」を使う

 

などなど挑戦できそうなことは挑戦しました。

途中、長雨や日照り、台風などいろんな異常気象にも見舞われ、何度もMITUとして死にかけましたが、少しずつ見えてきたことがありました。

 

 

3.見えかけてきた土作り

 

失敗を繰り返していく中で少しずつMITUなりの土作りが見えてきました。

MITUなり、というのは「できるだけ化学農薬を使わず、健康な野菜を育てる」ための土作りという意味です。

 

堆肥は植物由来のものを多めに

 

地力のない畑を育てていくためには、植物由来のものが多く含まれている堆肥がよいことがわかりました。

バーク堆肥のような木質系のものではなく、植物系のもの。

ワラとかソルガムとか大麦のようなイネのものをベースにした堆肥です。

堆肥を作るのが難しい場合は、イネ科の植物を枯れるまで育てたあと粉砕してそこに家畜の堆肥を少し混ぜ込むだけでも「なんとか」なります。

 

詳しい説明は省きますが、植物由来のものを少し多めに入れるのが地力のない畑の改良には良いことがわかりました。

 

ちなみに、家畜系の堆肥を多く入れても土壌改良の効果は高かったのですが、土の栄養バランスが崩れていて、病害虫が発生しやすいと感じました。

どの家畜の堆肥を入れるかでも変わってきますが、うちで購入した牛糞ともみ殻を混ぜた堆肥ではマンガンや銅、亜鉛の数値が高めになりました。

 

家畜ふん堆肥の重金属も含めた成分は農水省などの研究報告にも出ているので気になる方はそちらを見ていただきたいと思います。

牛や豚などの家畜のエサなどに含まれている重金属の中には家畜が吸収せずにそのまま糞尿として排出されるものがあり、数値が高いものもあるので、大量に投入したり連用するときには注意が必要と言われています。

 

 

栄養バランスを整える

 

MITUでは簡易的な土壌分析器しかないのですが、それを使って分析を行い、土の栄養バランスが保てるようにしています。

これは「BLOF理論」という理論をベースにしています。

 

BLOF理論とは①アミノ酸、②ミネラル、③土の団粒構造の3つの分野に分けて科学的かつ論理的に営農していく有機栽培技術のことでこの技術の一部をMITUでは取り入れています。

 

特にミネラル系の養分がすぐなくなったり過剰になることがあり、ここのバランスが崩れると病害虫にやられてしまうので、こまめに養分を見ながら対応するようにしています。

 

 

アミノ酸肥料を使う

BLOF理論でも出てきますが、「アミノ酸」肥料という肥料を主に使っています。

アミノ酸肥料には色んなものが出ていますが、MITUでは魚の煮汁を凝縮して米ぬかと配合したアミノ酸肥料を使用しています。

何故、アミノ酸肥料が良いかというと、土の中に溶け出したアミノ酸を植物がダイレクトに吸収し、結果元気な植物が育ちやすくなるからです。

 

 

栽培期間中は草を生やす

全てではないのですが、作物によっては作物の周りだけマルチで草が生えないようにしてその周りは草をはやしっぱなしにしています。

 

野菜の生育の邪魔にならない程度に草を刈り、刈った草はそのまま敷きます。

 

草を生やしていることでのメリットデメリットがあると思いますが、MITUでは草を生やすことで夏場の乾燥を防いだり、微生物の住処を残したり、害虫の天敵の住処を作ったり、枯れた草を最終的には畑にすき込むことで土を良くすると考えて実践しています。

 

 

微生物の活用

MITUでは食品から納豆菌、酵母菌を取り出して増やしています。

この増やした微生物たちはワラ堆肥を作るときに添加したり、植物にかけたりします。

育てる作物にもよりますが、ワラ堆肥に微生物を添加させそこで増やすことで病害虫が発生しにくくなります。

 

 

定期的にソルガムを投入

何年かに1度、ソルガムを育てそれをすき込むか堆肥にします。

MITUでは堆肥を作る時間がないのですき込むことのほうが多いのですが、ソルガムを育てて畑に投入することのメリットがいくつかあります。

 

1つは大量の有機物(セルロース)を畑に入れることが出来るということ。

すき込むタイミングや播種量にもよりますが、うちの場合だとすき込む前の段階で概算で4トン以上のソルガムをすき込みます。

約半年畑にいることになるのでその間は他の野菜は作付けできなくなりますが、すき込んで半年くらい寝かせるとふかふかした土になります。

 

2つ目は、耕盤を破壊してくれること。どうしてもトラクターなどで畑を耕していると耕盤という硬い土の層が出来てしまいます。耕盤をそのままにしておくと植物の根が張りにくくなったり、水が抜けにくく病気などが発生しやすい環境になってしまいます。

ソルガムは1m以上根を張り、この耕盤を破壊してくれるんです。

 

 

この6つの方法を組み合わせることで、地力のない畑でも2年目くらいから少しずつ野菜が採れるようになることがわかってきました。

 

既に「そんなんあたりまえだわ」とわかっていた方、ごめんなさい。

新規就農の素人人間なので、これがわかるまでに年月がかかりました。

 

 

4.これからの課題

 

失敗を繰り返してきた中でMITUなりに見えてきた土作り。

土壌をフカフカにして、栄養バランスを整え、野菜を育てると地力がなかった畑でもある程度野菜を育てることが出来ました。

ただ、野菜を育てる上での課題はまだまだあります。

 

その中で今MITU的に一番の課題が水の確保です。

震災前までは畑の脇にも農業用水が通っていてバルブを回せば水が出せるところも多かったのですが、震災後の工事で全面的に撤去されました。

そのため、灌漑設備がない状態です。

 

地力を上げても水がないと植物は栄養を吸えないですし、栄養を充分に吸えない植物は病害虫が寄ってきます。

 

近年、仙台の海側では冬から初夏(梅雨入り前)に雨が降ることが少なくなってきました。

統計上は例年通りの降水量になっていても、1日で例年1ヶ月分の雨がどっと降ったりするので、畑が乾燥でカチカチになりやすいんです。

 

最初は井戸を掘ることも考えましたが、圃場整備事業が完了するまで井戸が掘れないこと、借地が多いので掘ったあとに農地を返す可能性も大きいこと、沿岸なので塩分を含んでいることなどの要因で今は井戸を掘らずにいます。

 

今後、灌漑設備をどうするかは考えていかないといけません。

 

 

5.農業を始めるために、農地ありきか人ありきか

 

ほとんど地力のない畑から土作りをしていくという経験はなかなか経験できないものかもしれないと思っています。

私自身、それまで代々野菜を育ててきた祖母の畑で野菜を育ててきたので、先祖代々土作りをしてきたというありがたみを感じました。

 

異常気象や昨年の台風19号で農業を辞めるかどうするかを本気で考えたことが2回ほどありました。

そのときに「今の農地でなくてもいいじゃん、経験さえあればどこでもできるよ」と先輩や知人からもらった言葉が心にずんと響きました。

 

それまでは農業は農地があってなんぼという考え方だったからです。

農地がなければ農業はできないのですが、農地は探そうと思えば全国、全世界どこにでもある。やろうと思えば、どこでも出来るんです。

 

自分が失敗を経験し試行錯誤してきた経験というのは自分の資産であり、この経験を積んでいけばどこで農業をやったとしてもなんとかなると思えるようになりました。

 

これからも当面続くであろう異常気象、新型コロナウイルスの第2波3波、世界のいくつかの地域で発生しているバッタの大群、農業従事者の減少とますますの高齢化と難極を乗り切らないといけない場面が出てくることも予測されます。

 

そんな中でも経験を積みながら、健康に育てた美味しい野菜を育てられるよう修行していこうと思います。

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