農薬は危険なのか?発がん性があるのか?-農薬と安全性のお話

2018年8月、アメリカで末期がんと診断されている男性が、がんになったのは農薬大手モンサントの除草剤「ラウンドアップ」せいだと裁判同社を提訴した裁判で、陪審は10日、モンサントに約2億9000万ドル(約320億円)の支払いを命じる評決を出しました(AFP:http://www.afpbb.com/articles/-/3185756)。 

このニュースを皮切りに、農薬の安全性の有無についてSNS等で議論が行われています。 

このブログでは、農薬の安全性について一生産者の視点から見ていきつつ、その先にある「選択肢」について見てみたいと思います。 

農薬は安全である

農薬=危険、というイメージがあまりにも多いのですが、農薬は適正な範囲で使用する分には安全です。

農薬には「登録制度」があり、原則として国に登録されたものだけが製造、販売できます。
農薬を登録するには、製造者や輸入者がその農薬の品質や安全性に関する様々な試験成績を整え、農林水産大臣に申請します。 

登録申請された農薬の試験成績のうち、 安全性に係る成績に基づき、食品安全委員会においてADI(一日摂取許容量)が 設定され、これをもとに、厚生労働省に おいて作物等への残留農薬基準等が設定されます(http://www.fsc.go.jp/sonota/4gou_2.pdf

つまり、農薬は、使用量・使用方法をきちんと守り、摂取量をコントロールすることで安全性が確認されているのです。

何故、日本では農薬使用量が多いのか?

日本は農薬使用量が世界一と言われています。何故でしょうか? 
それは、日本の気候にあります。温帯の地域がほとんどで、夏は雨が多く、湿度も高い。

他の国に比べると虫や病気が発生しやすい。

そのような環境下で一定の収穫量と品質を得るために、農薬を使う機会が多くなります。
病害虫や菌の駆除、作物の生長を調整したり、除草の手間を省くことで農家の負担を減らしたり。
特に病害虫や菌が出てしまった田畑は収穫量が減り、見た目も品質も悪くなり、きちんと対応しないと安定した農産物の供給が難しくなる可能性もあります。 

これまでの農業の歴史をちょっとだけ見てみても江戸時代には長期にわたる異常気象や病害虫の異常発生などで飢饉となり、多くの人が飢えに苦しんだと言われています。
このようなこともあり、病害虫の異常発生に対し農薬を使用することで被害を最小限に留めるということも食料確保の観点からは必要なのかもしれません。 

私自身に農業をしていて「虫の当たり年」があるように感じています。
ある年は異常にアブラムシが発生したり、別の年には病気が発生したり。 

その年の天候に左右されていると考えられますが、病害虫が異常発生したときの対応はかなり大変ですし、収穫できる量も減ります。
近年では異常気象が続いているので、その都度対応しないと厳しくなってきていると個人的には思います。 

農薬の健康被害-除草剤とガンの関連性?

農薬の安全性が確かめられている中で起きた今回のモンサントへの裁判ニュース。 

この裁判では、農薬によって発がんしたことを事実上認める裁判となりました。 

農薬には発がん性があるのでしょうか? 
厚生労働省によると、悪性のリンパ腫の発生要因の中には

(7)農薬及びその他の化学物質のばく露

除草剤、害虫駆除剤、肥料を職業的に扱っている作業者と非ホジキンリンパ腫の発生との関係が疫学的に明らかにされている。
また、有機溶剤を扱っている職業人のリスクの増加も指摘されている。 
有機塩素系殺虫剤、ポリ塩化ビフェニールなどが非ホジキンリンパ腫を増加させることも疫学的に検討されている。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/s1010-3.html) 

とされています。

農薬と発がん性との関係については、これまで「発がん性がある」という見解と「発がん性がないあるいは可能性が低い」という見解分かれています。
各地での研究によれば、大量摂取した場合には発がん性がある可能性はありますが、規定の量であれば問題はないという見解のほうが多いようです。 

今回のアメリカでの裁判によって同様の訴訟が起こると推測されますが、今後の動向が注目されます。
2020年時点では、アメリカで複数起こった訴訟では、グリホサート系除草剤(ラウンドアップなど)が発がん性を示す根拠はない、という判決を下しました。

農薬の安全性はどうやって確かめている?

様々な研究機関でのデータを元に農薬は安全であると言われています。 
農薬は安全性試験を繰り返し行われ、その安全性が確かめられています。
「使用者の安全」、「食の安全」、「環境保全」の観点から安全性を見ているのです。 

この安全性を確保するための試験には「毒性試験」というものがあり、ラットやマウスなどの動物を使って毒性があるかないかをみます。 

動物試験をする必要があるのは何故か? 

端的に言えば、「人体実験」が出来ないからという一言に集約されると思います。
人を犠牲にして試験をするのは、道徳的・倫理的に問題ありますよね。 

近年では、動物に対する毒性試験も動物虐待等と指摘され、問題となっています。 

動物好きの私にとっては、何故動物が人間の都合で毒性試験の被検体となるのかは疑問です。 

話がすこしそれてしまいましたが、例えば人間とラットは遺伝子が99%が共通しており、疾病に関する遺伝子だけみても90%が同じだと言われています。 
この99%や90%という数字を見て、どう解釈するかは人それぞれです。
ラットやマウスは価格が安価であることや繁殖力が強いことから、試験でよく使用されています。 

一方で、動物試験での結果が人間へのリスクを正当に評価しているかどうか、に疑問を呈している論文もあります。 

例えば、ラットとマウスを使って同じ50種類の化学物質に試験を実施した結果、試験の結果が一貫していたのは65%のみであった。
(Ekwall B, Barile FA, Castano A, et al. MEIC evaluation of acute systemic toxicity. Part VI. The prediction of human toxicity by rodent LD50 values and results from 61 in vitro methods. Alternatives to Laboratory Animals 26 (Suppl. 2), 617-58 (1998). )

という研究報告があります。 

ラット試験での結果を元にすぐ人間への適応がなされるわけではありませんが、人間へ適応される場合、リスクが過小評価される可能性もあります。 

かつて私が大学院の学生だったとき、
農薬や病害虫の研究をしてきた先生が言っていました。 
「農薬は安全だと言われているが、人体実験をしているわけではない。現実に人体実験ができるわけではないけど、人体実験でもしない限り、安全だと証明するのは難しい。仮に人体実験をしたとしても、同じ環境で同じような実験を繰り返さねば、再現性も低い。あるもの(危険性)を証明するのは簡単だが、ないもの(危険性がない=安全)を証明するのはほぼ不可能だ。」と。 

農薬に限らず、薬などの医薬品、ワクチンも動物を使って臨床試験を行うことがあります。
私たちはこうした犠牲を払って試験を繰り返し安全性が確認されたものを使用している、というところは抑えておきたいところですね。

無農薬だから安全?

農薬を使用せずに育った野菜を食べることが安全につながる。
このように考える方も多いかと思います。 

無農薬だから100%安全、という根拠は残念ながら今の所ありません。 

育て方によっては、野菜が外敵(虫や病気)から身を護るために毒性の物質を出すことがあります。
この毒性の物質の中には、発がん性のある可能性のものもあり、有機野菜は危険であると警鐘を鳴らしている方々もいます。 

野菜が外的から身を守るために出す毒性の物質(自然毒とも言われています)はまだまだわかっていないことが多く、安全性も危険性も不明です。
私はまだ勉強不足でこのあたりに関する研究論文を探し出せていませんが、無農薬=100%安全と言い切ることには疑問を感じています。 

野菜を選択する

パラケルススという医師は「あらゆるものは毒であり、毒なきものなど存在しない。毒と薬を区別するのは分量である」と述べています。 

農薬を使用した野菜であろうが無農薬の野菜であろうが、野菜にも毒となる物質は存在しています。
その野菜を適量摂取することで私達は健康な身体を作っています。 

よく例として挙げられるのは、塩。 
塩は適量であれば身体にとってプラスの効果をもたらしますが、とり過ぎると高血圧や腎臓病などの病気になりますよね。 

100%安全な食べ物(野菜)なんて存在しません。 
これらを知った上で野菜を選択することが大切なのではないかと考えています。 

いかがでしたか?
SNS等では農薬vs無農薬、といった論争が生じるときもありますが、根底には「農作物が健康に育つようにサポートする」ことがあると考えています。
その中で天候の影響で虫や病気が発生してしまった場合には、農薬を使用して予防あるいは治療してあげるというのも必要なのではないかとも考えています。

農薬を使った野菜/使わない野菜で健康を害するかどうか、危険or安全かという判断は今のところ出来ません。
憶測や氾濫する情報に惑わされず、冷静に選んでいきたいですね。

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