【9年目の農家が語る】農福連携で失敗しないために 生産者側が注意すべきポイント

新規就農から早9年。右も左も分からぬまま始めた農福連携も、気づけば9年目を迎えました。
様々な福祉施設の方々とご一緒させていただく中で、試行錯誤を繰り返しながら、末永く良好な関係を築くために、生産者である私たち農家が特に注意すべき点が見えてきました。

もちろん、ここで取り上げる内容はあくまでも生産者側の視点からのものです。
福祉施設の方々からすれば、異なる意見や考え方もあるかもしれません。
しかし、これから農福連携に取り組もうと考えている生産者の方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。

農福連携9年目の気づき:生産者が「気をつけたい」と感じるケース

長年農福連携に携わる中で、残念ながら「これは長くは続かないだろうな…」と感じてしまうケースがいくつかありました。
ここでは、生産者側が特に注意しておきたいポイントを、具体的な事例を交えながら解説していきます。

1. 仕事の重みをあまり感じていないケース

私たち農家にとって、作物は単なる商品ではありません。
種をまき、丹精込めて育て、収穫し、そしてお客様や取引先へと届ける。その一つ一つの作業には、責任と情熱が込められています。
しかし、残念ながら、一部の福祉施設の方々の中には、この「仕事の重み」をあまり感じていただけないケースが見受けられます。

例えば、事前に依頼したノルマに対して、「福祉施設なので、できなくても仕方ない」「そんなに求められても困る」といった言葉が出てくることがあります。
もちろん、障害のある方々の状況には波があり、一律にノルマを課すことが適切でない場合もあるでしょう。
しかし、農家としては、作物を必要としている人たちのために、一定の品質と量を確保しなければなりません。

このような認識のずれが続くと、農家側としては、どうしてもその施設への作業依頼をためらってしまうようになります。
「お願いしても、結局できないかもしれない」「こちらの意図が伝わらないかもしれない」という不安が募り、結果的に連携が途絶えてしまうのです。

農福連携を円滑に進めるためには、作業の目的、つまり「誰のために、何を作っているのか」という点を、農家と福祉施設の間でしっかりと共有することが重要です。
生産物の先にいるお客様の存在を意識することで、作業に対する責任感も自然と生まれてくるのではないでしょうか。

2. 「やってもらって当たり前」という意識のケース

信じられないかもしれませんが、近所の方や人づてに借りた農地で耕作する場合に、必要な設備を自ら揃えようとせず、「借りて当たり前」という意識を持っている福祉施設も存在します。
酷いケースでは、近所の人からタダで農地を借りたり、近隣住民にボランティアで作業を手伝ってもらうのが当然と考えている場合もあります。

さらに問題なのは、借りた農地を草だらけのまま放置し、周囲に迷惑をかけても全く対処しようとしないことです。
見かねた近隣住民が管理を買って出ることもありますが、このような状況が続けば、地域社会からの信頼を失い、「もううちの地域で障害者には農業に関わらせない!」という声が上がってしまうのも無理はありません。

そして、悲しいことに、このような状況に陥った当事者たちは、自分たちが地域社会から孤立していることに気づいていないことが多いのです。酷い場合には、親切心で助けてくれた人たちを逆恨みすることさえあります。

農業を始めるということは、新規就農と同じです。
事前に農業に関する情報をしっかりと収集し、必要な設備投資ができるかどうかを慎重に検討する必要があります。
「○○農法でお金をかけずに儲けます」などという甘い言葉に惑わされることなく、現実的な計画を立てることが重要です。
自然を相手にする農業は、決して楽なものではありません。

3. 自然農法への誤解(=ほったらかし農法)のケース

近年、注目を集めている自然農法ですが、一部には「自然農法=ほったらかし農法=高付加価値高単価で儲かる」という誤った認識が広まっているように感じます。
その結果、草刈りなどの基本的な管理を怠り、周囲の農地に雑草を蔓延させてしまうといった迷惑行為に繋がるケースも少なくありません。

周囲から指摘を受けても聞く耳を持たず、迷惑をかけ続けた挙句、最終的には地域から姿を消してしまう。このような事例は、本当に残念でなりません。

農業初心者が、何の知識も経験もないまま自然農法に手を出し、高付加価値・高単価で「儲かる」というのは、まさに幻想です。
「スマホでたった30分、月収100万円!」といった怪しい情報と何ら変わりありません。

自然農法に真剣に取り組むのであれば、土壌改良といった下準備に最低でも5年以上、感覚的には10年程度の時間をかける覚悟が必要です。
これらの情報は、自然農法を実践している農家や団体に直接聞いたり、市販の書籍を調べればすぐにわかることです。しかし、なぜか「自然農法=ほったらかし=高単価=儲かる」というイメージだけが先行してしまっているように感じます。

4. 「手取り足取り教えて下さい」という依存的なケース

作業を委託しているにも関わらず、なぜか農家側が無償で仕事を教えるというパターンも存在します。
障害のある方への指導は、健常者への指導とは異なり、根気と時間が必要です。その結果、農家自身の本来の作業時間を大幅に削られてしまうことになります。

さらに驚くべきことに、このような状況下で、施設側から農家に対して作業委託料が支払われるという、摩訶不思議なケースも経験しました。
もちろん、初回導入時に基本的な作業手順を指導することは当然ですが、毎回、ゼロから教えなければならないというのは、生産者にとって大きな負担となります。

農福連携は、お互いの専門性を活かし、協力して作業を進めることが基本です。過度な依存は、農家側の負担を増やすだけでなく、障害のある方々の自立を妨げる可能性もあります。

5. 「自然の中で心身を癒やしたい/気分転換したい」という目的のずれのケース

「仕事」としての自覚が薄く、農作業を「自然の中で心身を癒やしたい」「気分転換したい」といった個人的な目的で捉えている場合、農家側の指示や要望がなかなか伝わらないことがあります。
経験談として、結構適当に仕事を片付けられてしまうこともありました。もちろん、自然の中で体を動かすことは、心身のリフレッシュに繋がるでしょう。
しかし、それが「仕事」として引き受けている以上、一定の責任感と質の確保が求められます。
もし、本当に気分転換や癒やしを目的とするのであれば、「仕事」として農作業を引き受けるのではなく、「農業体験」という形で関わる方が、農家と施設双方にとってメリットがあるのではないでしょうか。目的を明確にすることで、より建設的な関係を築けるはずです。

6. コミュニケーション不足・情報共有不足のケース(「聴いていません」)

事前に作業内容や段取りについて綿密な打ち合わせを行ったにも関わらず、現場に来て「何も聞いていません」という状態に陥ることがあります。これは、打ち合わせの内容がメモされていなかったり、施設内で情報共有がしっかりと行われていないことが原因です。

このような状況になると、現場は混乱し、段取りを最初からやり直したり、同じ説明を何度も繰り返さなければならなくなり、ただただ時間が無駄になってしまいます。スムーズな作業を進めるためには、正確な情報伝達と共有が不可欠です。打ち合わせの内容は必ず記録し、関係者全員が共有できる体制を整えることが重要です。

末永く良好な関係を築くために:生産者が大切にしたいこと

もちろん、農福連携の中には、素晴らしい出会いもたくさんあります。
ここでは、私がこれまでの経験を通して、「この施設とは末永く良い関係を築いていけるだろうな」と感じた、良好な連携のパターンを改めてご紹介します。

  • 農家と施設との円滑なコミュニケーション: 定期的な情報交換はもちろん、些細なことでも気軽に相談できる関係性が重要です。
  • お互い綿密にすり合わせや情報を共有できる: 作業内容、スケジュール、注意点などを事前にしっかりと確認し、認識のずれを防ぎます。
  • 農家と現場の支援員ですぐにPDCAを回し、改善していく: 問題点があればすぐに共有し、解決策を一緒に考え、実行に移します。
  • お互い歩み寄りが出来る: 一方的な要求ではなく、お互いの状況や立場を理解し、協力し合う姿勢が大切です。
  • はっきり言い合える関係性: 遠慮せずに意見を言い合える信頼関係があることで、より深い連携が可能になります。
  • 農家と施設の相性の善し悪しはあり、相性が良いとOK: 全ての農家と施設がうまくいくとは限りません。相性の良いパートナーを見つけることが重要です。

私自身、まだまだ至らぬ点も多いですが、これまで築き上げてきた信頼関係を大切にし、これからも末永くお付き合いできる福祉施設さんとの交流を深めていきたいと考えています。
農福連携は、地域社会にとっても、農業にとっても、大きな可能性を秘めていると信じています。そのためにも、生産者と福祉施設が互いを尊重し、協力し合える関係性を築いていくことが不可欠です。

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