2020年の梅雨は、まるで2017年の長雨が再び訪れたかのように、じっとりと長く感じられますね。
それでも私たちは毎日、畑の野菜たちと向き合い、その成長を見守っています。
さて、今回は、私たちが日々の農作業の中で非常に大切にしている要素の一つ、「風の流れ」について掘り下げてみたいと思います。
一見すると何気ない自然現象である風ですが、実は畑の環境、ひいては作物の生育に大きな影響を与える、非常に重要な要素なのです。
Table of Contents
風の流れを設計するということ
私たちの畑、MITUの仙台圃場では、一年を通して海からの風が吹くことが多いため、畑の設計においては、この東から西への風の流れを基本として考えます。
野菜たちが心地よく、そして健やかに育つように、風が畑全体を緩やかに通り抜ける道筋を作ることを意識しています。
そのために、主に二つの方法を実践しています。
一つ目は、作物を植える際の間隔の調整です。同じ列の中でも、苗の位置をわずかにずらしたり、株間や畝間を通常よりも少し広めに取るようにしています。
これは、風が作物の間をスムーズに流れやすくするためです。密集した状態では、風通しが悪くなり、湿気がこもりやすくなってしまいます。
二つ目は、畝の間に生えてくる草の管理です。自然栽培や自然農法というと、草を生やしっぱなしにするイメージがあるかもしれませんが、私たちの場合は、草もまた管理の対象です。
一定以上に伸びた草は、定期的に刈払機やハンマーナイフモアといった機械を使って刈り取ります。
なぜ草を刈るのかというと、草が過剰に茂ると、作物の周りの風通しが悪くなるからです。風の通り道を確保することで、畑全体の空気の流れをコントロールしています。
*2021年以降は栽培方針を変え、草を生やさないように心がけています。
なぜ風の流れを考えるのか?
畑で風の流れを意識することには、大きく分けて二つの重要な理由があります。
1. 病気(主にカビ類)や虫が発生しにくい環境を作る
カビが原因となる病気は、湿気がこもり、空気が淀んだ場所で発生しやすい傾向があります。また、湿度が高い環境を好む虫も多く、そのような場所は彼らの繁殖に適した温床となってしまいます。
風通しを良くすることで、畑の湿気を効率的に排出し、空気を常に動かすことができます。これにより、カビの胞子が定着しにくくなり、湿度を好む害虫の発生も抑制する効果が期待できます。まさに、風は畑の自然な換気扇のような役割を果たしてくれるのです。
2. 植物が丈夫になる
適度な風は、植物自身を強くする力を持っています。風を受けることで、植物は植物ホルモンを分泌します。このホルモンの働きによって、茎が太く、しっかりと成長するのです。
想像してみてください。常に無風の温室で育った植物と、多少の風に吹かれながら育った植物とでは、茎の太さや全体の丈夫さが異なるはずです。自然の環境下で育つ植物は、風という外部からの刺激に適応しようとすることで、自らを鍛えているのです。
緩やかな風がもたらす恵み
ただし、ここで重要なのは「緩やかな風」であるということです。強すぎる風は、逆に作物に悪影響を及ぼす可能性があります。
- 茎が折れてしまう: 強風は、特に成長途中の柔らかい茎を簡単に折ってしまうことがあります。
- 葉物野菜が硬くなる傾向: 強い風にさらされることで、葉物野菜は身を守ろうとして組織が硬くなることがあります。これは、食味を損なう原因にもなりかねません。
- 実をつける野菜の実付きが遅くなる: 強風は、花を散らしたり、受粉を妨げたりすることで、実をつける野菜の生育を遅らせる可能性があります。
そのため、私たちが目指すのは、畑全体に「緩やか」な風の流れを作り出すことです。
もし、圃場全体として風が強いと感じる場所には、ソルガムやトウモロコシといった草丈の高い作物を風よけとして植えることもあります。
これらの作物が天然の壁となり、強い風を和らげ、畑の中に穏やかな空気の流れを生み出してくれるのです。
風、光、水、土。すべては繋がっている
今回は「風の流れ」という一つの側面に焦点を当ててお話しましたが、畑の環境を整える上で大切な要素は、風だけではありません。
光、水の流れ、そして土の状態。これら全てが複雑に絡み合い、作物の生育に影響を与えています。
私たちは、それぞれの野菜が持つ特性を理解し、その野菜にとって最も適した環境を、これらの要素を総合的に考慮しながら作り出すよう日々工夫しています。
もし、ご家庭の小さな菜園で野菜を育てている方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、畑の中の風の流れに意識を向けてみてください。
植える間隔を少し工夫したり、周りの植物の配置を考えるだけでも、きっと野菜たちの育ち方が変わってくるはずです。
自然の力を最大限に活かし、健やかな野菜を育てる喜びを、皆さんと分かち合えたら幸いです。