農福連携の現場から見えた農家と支援員の役割:就労支援A型・B型の違い、生活支援員・職業指導員の解説付き

宮城県仙台市で、農福連携という形で施設外就労の取り組みを始めてから、2020年で早7年が経とうとしています。
この間、複数の就労支援施設様とご一緒させていただき、そのうち一箇所の施設様とは約4年という長いお付き合いをさせていただいています。

長年お付き合いさせていただく中で、「当たり前」だと思っていたことが実はそうではなかったり、未だにお互いに試行錯誤を繰り返していることがあります。
先日、宮城県内で農福連携に取り組む事業所やこれから参入を検討している事業者、そして農業者の方々が集まる座談会に参加する機会をいただきました。
そこで、弊社の取り組みについてお話させていただいたのですが、その中で特に話題になったのが「農福連携における支援員の役割」についてでした。

このブログでは、あくまでも私個人の経験に基づき、農家側の視点から「農福連携において求められる農家と支援員の役割」について深く掘り下げて考えていきたいと思います。

農福連携とは

まず、「農福連携」とは何かについて簡単にご説明します。
農福連携とは、農業分野と福祉分野が連携し、互いの資源やノウハウを活用することで、障がい者や高齢者などの就労や社会参加を促進する取り組みです。
具体的には、福祉事業所が農業者と協力し、利用者が農作業を通じて社会とのつながりを築いたり、働く喜びを感じたりする機会を提供します。
農業者側にとっては、労働力不足の解消や地域活性化といったメリットが期待できます。

就労支援A型とB型の違い

農福連携の現場で関わることの多い就労支援には、主にA型とB型があります。それぞれの特徴を理解することは、支援員の役割を考える上で重要です。

就労継続支援A型

就労継続支援A型は、一般企業などへの就職が困難な障がいのある方に対して、雇用契約に基づいた就労の機会を提供する事業です。
利用者は、事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を受け取りながら、働くための知識や能力の向上を目指します。
A型事業所は、利用者に対して生産活動やその他の活動の機会を提供し、就労に必要な訓練や支援を行います。

就労継続支援B型

一方、就労継続支援B型は、一般企業などへの就職やA型事業所での就労が困難な障がいのある方に対して、就労の機会の提供とともに、生産活動やその他の活動への参加を通じて、その能力や適性の向上を目指す事業です。A型とは異なり、雇用契約を結ばず、比較的柔軟な働き方が可能です。
利用者は、生産活動の対価として工賃を受け取ります。B型事業所は、利用者の状況に合わせて、軽作業や創作活動など、様々な活動プログラムを提供します。

農福連携の現場では、A型事業所の利用者さんが雇用契約に基づいて農作業を行う場合もあれば、B型事業所の利用者さんが工賃を得ながら農作業に取り組む場合もあります。
それぞれの制度の違いを理解した上で、利用者の状況や能力に合わせた支援が求められます。

生活支援員と職業指導員

就労支援施設には、利用者の支援を行う様々な職種の職員が配置されています。その中でも、現場で特に重要な役割を担うのが「生活支援員」と「職業指導員」です。

生活支援員

生活支援員は、主に利用者の日常生活に関する支援を行います。
具体的には、健康管理、食事、排泄、入浴などの介助、身の回りの整理整頓の指導、金銭管理の援助、地域生活への移行支援など、利用者が地域社会で安心して生活を送るための幅広いサポートを行います。農福連携の現場においては、利用者の体調管理や作業中の休憩の促し、作業に必要な持ち物の準備などをサポートすることが考えられます。

職業指導員

一方、職業指導員は、利用者の就労に向けた指導や支援、援助を行います。
具体的には、個別の支援計画の作成、就労スキルの指導、職場開拓、就職活動の支援、就職後の定着支援など、利用者が働くために必要な知識や技能を習得し、安定した就労生活を送るためのサポートを行います。農福連携の現場においては、農作業の指導、作業手順の説明、作業進捗の確認、利用者の能力評価、目標設定のサポートなど、就労に直接関わる支援を行うことが中心となります。

しかし、農福連携の実際の現場、特に施設外就労においては、生活支援員と職業指導員という明確な役割分担ではなく、依頼された農作業をこなしながら、利用者が就労に向けたトレーニングを行ったり、実際の現場の感覚を掴んだりするといった側面に重点が置かれていると感じています。

農福連携の現場で求められる支援

農家側の視点からすると、農福連携は、依頼した農作業を行ってもらうことへの対価として工賃や給料を支払うというビジネス的な要素と、実際に現場で働いてもらうことで利用者さんそれぞれの目標に向けたステップを踏んでもらうという福祉的な要素が混在しています。少なくとも、私たちMITUではそのように考えて取り組んでいます。

このビジネスと福祉の狭間でバランスを取ることは、非常に難しいと感じています。特に難しいと感じるのは以下の2点です。

  1. 農家側で依頼した仕事内容に農家がどのくらい介入するか
  2. 依頼した仕事内容が出来なかった場合の折り合いをどうつけるか

農家側の介入度合い

農福連携に際して、私たちは工賃に合わせた仕事内容と達成目標を設定しています。
しかし、農作業は天候に左右されたり、利用者のモチベーションや体調によって進捗が大きく変動したりするため、予め設定した目標を達成できないことも少なくありません。

一方で、私たちもボランティアで工賃や給料を支払うわけにはいきません。このビジネスと福祉のバランスを取ることが非常に難しいと感じています。また、「やり方がわからない」という場合に、農家側で指導することもありますが、特に私たちのような零細農家では、人手不足を補うために農福連携を活用している側面もあるため、作業ができるようになるまで手取り足取り長い時間をかけて指導する余裕がないのが実情です。

実際には、「ここまでは終わらせたいから、一緒にやってしまおう」と私も作業に入ったり、支援員さんと相談して利用者の仕事の振り分けを変更したりすることも多々あります。

仕事ができなかった場合の折り合い

工賃に合わせた仕事内容、達成目標に到達しなかった場合の折り合いをどうつけるか、これも常に考えさせられる課題です。
私たちとしては、仮に目標に大きく到達しなかった場合を除き目標に達成しなかったとしても、それが次に繋がれば良いと考えています。
例えば、「今回は作業の振り分けが●●だったから、今度は▲▲にしてやってみよう」とか、「■■のタイミングで××の作業をすれば目標達成できるかもしれない」といった具合に、改善策を模索するようにしています。

また、支援員さんと協議の上、「〇〇さんは今日は仕事のペースが遅かったので、工賃を△△円にします」という形で折り合いをつけることもあります。
しかし、この目標設定と支援員さんへの伝え方が非常に難しいと感じています。

中には、「仕事が出来なかったら、クビにしてもらっていいです」と言われる利用者さんもいらっしゃいますし、「いやいや、うちは目標がどうであれ決まった工賃を払ってもらわないと困る」という施設側の意見もあります。また、「利用者が働けなかった分は、支援員側でカバーします」と、支援員さんが作業に没頭してしまうケースもあります。

これらの意見や状況は理解できるのですが、「そこを言いたいわけではない」というもどかしさを感じることもあります。
私たちの目的は、単に農作業をしてもらうことではなく、利用者が農作業を通じて働く喜びを感じ、達成感を味わい、社会参加へのステップを踏むことだからです。

農福連携における農家と支援員の役割

ビジネスと福祉の狭間で、より良い関係を築き、農福連携をより有意義なものにしていくためには、農家と支援員がそれぞれの役割をしっかりと認識し、連携していくことが不可欠です。

農家側としては、

  • 工賃に見合った、かつ利用者が達成できるであろう目標設定
  • 農家側が考えるビジネスと福祉のバランス、線引きの設定

を明確にし、これらを支援員と十分に話し合うことが重要だと考えています。

一方、支援員の方には、

  • 利用者がそれぞれの目標に向けて段階的にステップを踏んでいけるように、農作業を通じた支援方法を考える
  • 農家側から依頼された仕事を、利用者さんがチームとしてスムーズに終えられるように、それぞれの能力や状況を考慮した役割分担を見つけ出す

といった役割が重要なのではないかと感じています。

決して、利用者ができない作業を支援員さんが必死になってカバーすることが、農福連携の本質ではないと考えます。
もちろん、必要なサポートは重要ですが、利用者一人ひとりの行動を観察し、それぞれの能力に合った仕事を割り振り、現場の仕事を遂行していく中で、その先に利用者それぞれが掲げている目標へのステップを踏んでいけるか、ここを農福連携では最も大切にしていきたいと考えています。

農家と支援員がそれぞれの専門性を活かし、互いに尊重し協力し合うことで、農福連携はより実りあるものになると信じています。今後も、より良い連携のあり方を模索しながら、利用者さんの成長と地域社会への貢献を目指していきたいと思います。

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