2021年の春を迎え、私の畑もいよいよ本格的な準備期間に入りました。
昨年から続く新型コロナウイルスの影響は、ここMITUにも少なからず影を落としています。
先の見えない状況の中、私は数ヶ月間、来る日も来る日も悩み続け、熟慮の末、今後の方向性を大きく転換することを決意しました。
今回は、その決断に至るまでの経緯と、新たな挑戦についてお話させてください。
栽培方法の柔軟な転換:慣行栽培と有機栽培の並行
長きにわたる苦悩の末、今年から私の畑では、野菜の栽培方法を大きく二つに分けることにしました。
一つは、生協の基準に基づき、生協が認めている農薬や除草剤を使用する「慣行栽培」。そしてもう一つは、化学肥料や化学農薬などを一切使用しない「有機栽培」です。
この決断に至った理由は、大きく分けて二つあります。
一つ目は、「健康に育った野菜を皆様にお届けしたい」という強い想いです。もちろん、「健康に育った野菜」という言葉の定義は多岐にわたるでしょう。
私自身は、土壌の栄養バランスが整い、多様な微生物が活発な畑で、のびのびと育った野菜だと考えています。
この考えを深く掘り下げていくうちに、栽培方法そのものが絶対的な要素ではないのではないか、という考えに至りました。
慣行栽培であろうと有機栽培であろうと、近年ますます不安定になっている天候状況の中で、野菜が健やかに育つように精一杯サポートしていくことこそが重要なのではないかと。
例えば、悪天候が続き、どうしても作物に病害が広がる可能性が高いと判断した場合、最小限の薬剤を使用して予防や治療を行うことも視野に入れるということです。
就農したばかりの頃は、「有機栽培一本で!」と意気込んでいましたが、様々な研究データや論文に触れる中で、「慣行 VS 有機」という二元論的な構図に違和感を覚えるようになりました。
振り返れば、当時の私は知識も経験も不足しており、物事を単純な対立構造でしか捉えられていなかったのだと思います。
「どちらが危険でどちらが安全か」「どちらが環境に優しいか」といった議論は非常に複雑で、一概に結論を出すことは難しいと感じています。
二つ目の理由は、新型コロナウイルスの感染拡大が続く現状において、畑の管理体制を維持するためです。
これまで、農福連携などを通じて多くの方に畑作業を手伝っていただいていましたが、感染状況を考慮すると、当面の間、これまでのような協働体制を維持することは難しいと考えています。
私の畑は約4ヘクタール(東京ドーム約1個分)という広大な面積であり、現状ではほぼ一人で管理せざるを得ません。
まさに「鬼の形相」で必死に作業している毎日です(笑)。分身の術が使えたらどんなに良いかと思いますが……。
冗談はさておき、基礎疾患を抱えているスタッフの方やそのご家族の安全を考えると、無理に作業に来ていただくわけにはいきません。
昨年、新たに当園との農福連携に取り組む予定だった団体もありましたが、残念ながら新型コロナウイルスの影響で計画は中止となってしまいました。
近い将来、コロナ禍が収束することを心から願いつつ、それまでは一人でも多くの方に美味しい野菜をお届けできるよう、黙々と作業を続けていく覚悟です。
もちろん、慣行栽培を行うからといって、無分別に多くの農薬や除草剤を使用するつもりはありません。
作物の状態を丁寧に観察し、本当に必要な場合に、必要最小限の使用回数に留めることをお約束します。
続けてきて思う野菜への想い
まだまだ修行不足の身ではありますが、農家として日々畑と向き合い、様々な農家さんの現場や話を聞く中で、野菜を育てることに対する私の想いも変化してきました。
その根底にあるのは、「全ての野菜が健康に育つためにはどうすればいいのか」「健康に育った野菜を、MITUに関わってくださる全ての方に届けたい」という強い願いです。
様々な文献を調べたり、日々の畑での観察を重ねる中で、「健康な作物とは一体何なのだろうか」と考え続けてきました。
すると意外にも、身近なところに「健康な作物」を明確に定義している資料があったのです。それは、自然農法文化事業団が発行している資料でした。
その資料によると、健康な野菜とは以下のような特徴を持つとされています。
- 作物がリズミカル(葉序に乱れがない)でムラのない生育をする。
- 対称性に優れていて葉脈や開葉角度などの左右・同心円的な整合性が高い。
- 葉は柔らかな厚みがありやや小ぶりで立っている。茎はやや太めで、徒長していない。
- 根はたくましくて量が多く、根張りが強い。
- 植物の中で炭素同化(二酸化炭素を取り込んで有機物に変換する過程のこと)が進み、未消化な窒素が減少し、根の量が増えかつ広い範囲に根を張る。そして、リン酸やミネラルの吸収が旺盛になる。
そして、このような生育の流れの中で、作物は収量が増加し、病害虫に強くなり、栄養価が高くなる、と述べられています。
実際に様々な畑を見て回っても、健康に育っている野菜は、形が整っていて、葉が生き生きとつやつやと輝いているように感じます。
少し変な言い方かもしれませんが、野菜そのものがキラキラと輝いているのです。
では、健康な野菜を育てるためにはどうすれば良いのでしょうか。私が現時点で考えている基本的なことは、
- 土壌の栄養バランスを整え、多様な微生物が共存する豊かな土壌環境を作ること。
- 野菜の周りに雑草を生やさず、野菜に十分な光と風を当てること。
この二つが基本になるだろうと考えています。風通しが悪く、虫が大量に発生したり、カビなどの病気が蔓延したりする環境は、間違いなく野菜にとって健全な状態とは言えません。
この二つの基本を軸に置きつつ、近年、異常気象とも言えるような、長期間の乾燥や記録的な大雨による畑の水没など、植物が生育するにはあまりにも過酷な環境が増えているように感じています。
そのような過酷な環境に晒され、弱っていく野菜を見ると、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
そして、その野菜を心待ちにしてくださっている皆様にも、大変申し訳ない気持ちになります。
一農家として、私はただただ野菜に元気に育ってほしいと願っています。そして、その元気いっぱいの野菜を、皆様に美味しく召し上がっていただきたい。
そのために、私はこれからも様々な方法を模索し、野菜が健やかに育つためのサポートを惜しみなく続けていきたいと思っています。
今回の新たな挑戦が、皆様にとってより安心で美味しい野菜をお届けできる一歩となるよう、精一杯努めてまいりますので、これからもMITUの野菜をどうぞよろしくお願いいたします。