社会に馴染めないと感じるあなたへ。農業体験を通して見えた、自分と他者との心地よい距離感【HPS(Highly Sensitive Person)について】

先日、農業体験に、社会に馴染むことに難しさを感じているという方がいらっしゃいました。
働きたいという意欲はあるものの、人間関係で度々つまずいてしまうとのこと。
お話を聞く中で、その方は人の顔色に非常に敏感である一方、時には周囲の状況に鈍感さを感じてしまう部分もあるようでした。

御本人からは「HPS(Highly Sensitive Person)」という特性が、自分自身の感じやすさと深く関わっているとお話されていました。
過敏に人の感情を読み取ってしまう繊細さゆえに、「人に嫌われるのではないか」という強い不安に苛まれたり、深く考えすぎてしまうことがあるようです。

HPS(Highly Sensitive Person)とは

HPS、日本語では「非常に敏感な人」または「高度に感受性の高い人」と訳されるこの概念は、1990年代にアメリカの心理学者であるエレイン・アーロン博士によって提唱されました。
HPSは、単なる内向的な性格や神経質な気質とは異なり、生まれつきの特性であると考えられています。

アーロン博士の研究によると、HPSの人は、以下の4つの主要な特徴を持つ傾向があります(頭文字をとって「DOES」と表現されます)。

  1. Depth of Processing(深い処理): 物事を表面だけでなく、より深く、複雑に考え、処理する傾向があります。些細なことにも気づきやすく、過去の経験や知識と照らし合わせながら、じっくりと時間をかけて考えを巡らせます。
  2. Overstimulation(過剰な刺激への弱さ): 強い光、騒音、雑踏、強い匂い、肌触りの悪いものなど、外部からの刺激に過敏に反応しやすい傾向があります。また、多くの人の中にいたり、複数のタスクを同時にこなしたりすることも苦手とし、疲れやすいと感じることがあります。
  3. Emotional Reactivity and High Empathy(感情的な反応の強さと高い共感性): 他の人の感情に強く共感し、影響を受けやすい傾向があります。人の喜びや悲しみを自分のことのように感じ取ることができ、感情的な反応も大きいため、感動しやすい、涙もろいといった一面もあります。
  4. Sensitivity to Subtle Stimuli(些細な刺激への 感受性): 他の人が気づかないような、微細な変化やニュアンスに気づきやすい傾向があります。人の表情のわずかな変化、声のトーンの微妙な違いなどを敏感に察知します。

HPSであることは、精神疾患や障害ではありません。人口の15〜20%に見られる、個性の一つとして捉えられています。
HPSの人は、その感受性の高さゆえに、生きづらさを感じやすい側面もありますが、豊かな感受性や深い洞察力、強い共感性といったポジティブな側面も持ち合わせています。

かつての自分を重ねて

農業体験に来られた方の話を聞きながら、園主である私自身も、特に30代までは人の顔色を非常に気にするタイプで、「人に嫌われる」という意識が常に頭の片隅にありました。
だからこそ、その方の気持ちが痛いほどよく理解できます。

人の表情のわずかな変化、声のトーン、ちょっとした仕草にまで敏感に気づいてしまうため、常に周囲に気を遣い、自分なりに相手を慮っているつもりでも、それが大きな負担となって、どっと疲れてしまうんですよね。
私の場合は、年齢を重ねるにつれて、敏感に感じ取っても以前ほど気にならなくなってきました。
また、幸運なことに、最近では良い意味で気を遣わずに済むような、心地よい人間関係を築ける人たちと一緒にいる時間が増えたため、以前のような疲れを感じることも少なくなりました。
それでもたまに知り合いと出かけたり交流会に参加したりすると1,2日疲れが取れないほど疲弊します。

体験に来られた方から「どうすれば人の目を気にせず、楽に生きられるようになりますか?」という質問を受けた際、私は自分の経験を踏まえ、以下の3つのことをお伝えしました。

  • 嫌われる勇気を持つ
  • 自分のことしか考えていないテイカーを見抜く経験を積んで、テイカーが来たら逃げる
  • 己を磨き、ギヴァーになる

受け入れることの重要性

過去の自分を振り返ると、「なぜ、自分はこんなにも敏感なんだろう」「どうして、こんなにも人の目が気になるんだろう」と、自問自答を繰り返し、ネガティブな感情に囚われることが多かったように思います。
そして、「自分を変えなければ!」と焦り、様々な行動を起こしては疲れ果て、また行動しては疲れ果てるといった、悪循環のような日々を送っていました。

そんな時、偶然手に取った本の中に、「自分の短所を直すことに集中するよりも、そういう自分を受け入れることのほうが大事だ」という一節がありました。
その言葉は、当時の私にとって衝撃的なものでした。それまで、自分の長所を伸ばし、短所を克服することが成長の唯一の方法だと思っていたからです。

「自分を受け入れる」ということは、未だに完全にできているとは言えませんが、それでも「自分の弱点はこういうところだよな」と認めるようになってからは、短所を無理に直そうとするのではなく、どのように対策を講じれば良いのかを考えるようになったり、「自分は自分、他人は他人」とある程度割り切って考えられるようになりました。

承認欲求を減らすという視点

「人の顔色にものすごく敏感」だったり、「人に嫌われることが怖い」と感じるのは、潜在的に承認欲求があるからだと、個人的には考えています。
承認欲求は、誰でも持っている欲求の一つであり、完全に消し去ることは難しいでしょう。

しかし、過剰に肥大化した承認欲求を意識的に減らすことは、可能であると思います。

私たちの農場に来ていた研修生や、障害のある方、いわゆるグレーゾーンと呼ばれる生きづらさを抱えている方の中にも、過剰な承認欲求が要因で社会に馴染むことに苦労しているのではないかと感じるケースがいくつかありました。
しかし、そうした方々の中には、自分が夢中になれることを見つけたり、ありのままの自分を受け入れるようになってから、過剰な承認欲求が落ち着き、少しずつ社会に踏み出すことができるようになった人もいます。

今回の農業体験や、日々の様々な人々との交流を通して、私自身も改めて自分自身を見つめ直す良い機会になりました。
人の感受性は、時に生きづらさを生むかもしれませんが、それは同時に、他者の感情に深く共感できるという、かけがえのない才能でもあるはずです。
大切なのは、その感受性を理解し、受け入れ、自分自身との心地よい付き合い方を見つけていくことなのかもしれません。

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