集団移転跡地での農福連携、3年間の試行錯誤と新たな計画

東日本大震災から数年後、本格的に借り受けた集団移転跡地。
あれから3年、試行錯誤を繰り返しながら、この場所での農福連携の取り組みを進めてきました。
しかし、実際に運営してみる中で、当初の提案には見直しが必要だと痛感し、この度、計画を大幅に練り直すことにしました。
この変更が受け入れられるかどうか、今は期待と不安が入り混じる心境です。

今回は、私たちが集団移転跡地での取り組みをどのように変更していこうと考えているのか、その具体的な内容についてご紹介したいと思います。

マルシェの中止:安全第一の判断

以前は、「畑deマルシェ」という地域の方々との交流の場となるマルシェを定期的に開催していました。集団移転跡地を借り受けた当初も、このマルシェを継続していく予定でした。

しかし、世界を覆った新型コロナウイルスの感染拡大により、マルシェの開催は困難な状況に。
現在は感染症法上の分類も5類に移行し、社会的な制限も緩和されてきましたが、私たちの農場で働く障害のあるスタッフさんの多くは、基礎疾患を抱えています。また、ご家族の方々も依然として感染への不安を抱えている状況です。

様々な状況を考慮した結果、苦渋の決断ではありますが、当面の間、集団移転跡地でのマルシェ開催は見送ることにしました。
いつか、安心して皆さんと交流できる日が来ることを願っていますが、それまでは別の形での地域との繋がりを模索していきたいと考えています。

加工から生産へ:得意分野に集中

以前の計画では、収穫した作物を加工して付加価値を高める六次産業化を見据え、加工施設の設立も視野に入れていました。
障害のあるスタッフさんの就労の幅を広げるという目的もありましたが、こちらも計画を変更し、今後は作物の生産に注力していくことにしました。

この決断にはいくつかの理由があります。まず、加工に関しては、専門的な知識や設備が必要であり、すでにノウハウを蓄積している加工専門の事業者にお願いする方が効率的であると考えました。
また、集団移転跡地の土壌の状態は、場所によって大きく異なり、作付けできる野菜の種類が限られています。現状では、加工に適した特定の野菜を安定的に生産することが難しいという現実も、この判断を後押ししました。

県内には、障害者就労支援を行っている福祉施設で、積極的に農産物の加工に取り組んでいるところが数多く存在します。
そうした施設に加工を依頼することで、お互いの強みを活かし、より良い連携に繋がるのではないかと考えています。
私たちの生産した作物が、他の施設の障害のあるスタッフさんの仕事を生み出す一助となるのであれば、これほど喜ばしいことはありません。

加工に限らず、今後は他の障害者就労支援施設との連携の幅を、少しずつではありますが広げていきたいと考えています。それぞれの得意分野を活かし、協力し合うことで、より多くの障害のある方の就労支援に繋がると信じています。

イベントの方向転換:より専門的なニーズへ

当初の計画では、地域住民の方々をはじめ、幅広い層を対象とした農業体験イベントの開催を予定していました。
しかし、実際にイベントを企画・運営していく中で、参加者のニーズや地域の状況を考慮した結果、イベントの方向性が徐々に変化してきました。

気がつけば、私たちのイベントは、障害のある方や、いわゆるグレーゾーンと呼ばれる生きづらさを抱える方を対象としたものや、少人数でのファミリー向けの体験型イベントが中心となっていました。

これは、他の集団移転跡地利活用事業者の方々の取り組み内容とも重複しない、私たち「MITU」ならではの特色になると感じています。今後は、この方向性をさらに深めていきたいと考えています。

また、集団移転跡地の土壌には、場所によってはまだ多くのガレキが残っており、中にはガラス片なども見受けられます。
参加者の安全を最優先に考慮し、現在は積極的なイベント開催は見合わせています。今後、ガレキの除去作業を少しずつ進めながら、安全に楽しめるイベントの企画を進めていく予定です。

少量多品目から特化へ:育つものを見極める

以前の計画では、様々な種類の野菜を少量ずつ栽培し、それらを活用した収穫体験などを実施する予定でした。
しかし、実際に様々な野菜を作付けしてみると、場所によっては畑として機能するまでに、想像以上の時間と労力がかかることが分かりました。数年経っても、まだ石や瓦礫が多く、作物が根を張るのが難しいような場所も少なくありません。

借り受け期間という時間的な制約も考慮すると、集団移転跡地の限られた土壌でもしっかりと育つ野菜に栽培を絞り、その特定の野菜を中心に障害者就労支援や農業体験イベントを展開していくという方向に舵を切りました。

現在の土壌の状態から予測すると、この移転跡地全体が本格的な「畑」として機能するには、あと4〜5年程度の時間が必要となる見込みです。借り受け当初から数えると、土壌改良だけで7〜8年かかる計算になります。

この話をすると、「他の場所で農業をしても良いのではないか?」というアドバイスをいただくことも少なくありません。しかし、この場所は私が生まれ育った、大切な故郷です。強い思い入れがあるからこそ、もう少しだけ、この場所で粘り強く土と向き合っていきたいと思っています。

最後に

借り受け当初に描いていた計画からは、かなり方向性が変わってきました。しかし、実際に3年間、この場所で様々な取り組みを試みてきたからこそ見えてきた現実、そして、本当に大切にしたいことが明確になりました。

現在は、この新たな計画の審査を待っている状況です。もし、この変更が認められれば、焦らず、気長に土壌改良から始め、この集団移転跡地を、障害のある方々にとって、地域の方々にとって、そして私自身にとっても、かけがえのない場所にしていきたいと考えています。

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