東日本大震災から十数年が経ち、各地で復興への道のりが続いています。
私たちもまた、震災で宅地だった場所を畑へと蘇らせる取り組みを続けてきました。
最近はInstagramではナスの投稿ばかりですが、それもそのはず、毎日ナスの畑にいる時間がほとんどだからです。
この場所でナスが立派に育つようになるまでには、かれこれ4、5年もの歳月がかかりました。
今回は、私たちが経験してきた土づくりの苦労と、その中で見つけた独自の「やり方」についてお話ししたいと思います。
Table of Contents
震災の記憶と「マシ」な土地選び
震災後、私たちは仙台市から集団移転跡地の土地を借り受けることになりました。
広大な土地が点在する中で、私たちがナス栽培に選んだのは「マシ」と思える場所でした。
しかし、「マシ」といっても、元々は住宅が立ち並んでいた場所です。
基礎や瓦礫が残っていたり、土が固く締まっていたり、作物を育てるには厳しい条件の土地ばかりでした。
試行錯誤の土づくり:失敗から生まれた独自の「やり方」
多くの人が、畑を借りたらすぐに堆肥や肥料を投入すれば、秀品率8割超えの農産物が収穫できると思っているかもしれません。
しかし、元々宅地だった場所では、そんなに簡単な話ではありませんでした。
私たちが経験した土づくりは、まさに試行錯誤の連続で、正直なところ、失敗ばかりでした。
しかし、その失敗から学んだ結果、私たちなりの「やり方」が確立されていきました。
ステップ1:まずは土壌の状態を把握する
私たちはまず、借り受けた土地の土壌がどのような状態なのかを把握することから始めました。
土壌サンプルを採取し、土壌診断を行うことで、土のpH(酸度)や栄養成分の過不足、有機物含有量などを数値で確認しました。
これによって、その土地に何が足りないのか、何を改善すべきなのかが明確になります。
ステップ2:作物を「試す」
土壌診断の結果を踏まえ、まずは「試し」に何かを蒔いてみる、あるいはキャベツなどの丈夫な作物を定植してみることから始めました。
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蒔く、定植する: この段階では、生育状況を見るのが目的です。もし作物が順調に育てば、その土地にはある程度の作物生産能力があると判断できます。その場合は、本格的な作付け計画を立てていく段階へと進みます。
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育たなかったら緑肥にチャレンジ: もし作物がほとんど育たない、あるいは生育が著しく悪いようであれば、土壌の状態がかなり悪いと判断できます。この場合、私たちは次に「緑肥」の栽培に挑戦します。緑肥とは、土壌改良のために栽培される植物のことで、根を深く張って土をほぐしたり、有機物を供給したりする効果があります。
ステップ3:緑肥さえ育たない土地には「雑草」の力を借りる
仙台市から借り受けた土地の約8割は緑肥さえもまともに育たないような土地でした。
このような土地では、焦って作物を作ろうとしても徒労に終わるだけです。私たちはこのような土地に対して、数年間、意図的に雑草を生やすという選択をしました。
「畑を荒らしている」と批判の声が聞こえてくることもあります。
中には、「市から借りたのに荒らしてどういうつもりだ?」とか、「荒らしているなら、うちに貸せ」と声をかけてくる人もいました。
しかし、これは決して畑を放置しているわけではありません。雑草の生命力は非常に強く、彼らは劣悪な土壌環境でも生育することができます。
雑草の根が土を耕し、枯れた雑草が分解されることで有機物が供給され、微生物の活動が活発になります。
具体的には、
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雑草を生やす: 数年間、あえて雑草を生やし続けます。これにより、土壌の団粒構造が改善され、水はけや通気性が向上します。
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モアで叩いてすき込みを繰り返す: ある程度の期間雑草を生やしたら、モアで雑草を細かく粉砕し、そのまま土にすき込みます。これを繰り返すことで、土壌中の有機物が増加し、土壌が豊かになっていきます。
ステップ4:そして緑肥、作物栽培へ
雑草による土壌改良を数年間行った後、ようやく緑肥の本格的な栽培に移ります。
緑肥を数年間栽培することで、土壌の肥沃度がさらに高まり、作物を育てられる状態へと近づいていきます。
そして、最終的に土壌が十分に改良されたと判断できれば、ようやくナスなどの作物の作付けへと進むことができるのです。
この一連のプロセスは非常に時間と労力がかかりますが、元々宅地だった場所で安定した農業を行うためには、避けては通れない道だと実感しています。
困難な道のりの中で見えたもの
私たちの土づくりは、決して平坦な道のりではありませんでした。瓦礫や石が多く残る土地は、重機を使ってもなかなか除去しきれません。あまりにも瓦礫や石が多い場所は、残念ながら市に返却し、他の事業者が活用する選択をせざるを得ませんでした。しかし、畑として活用できる可能性のある場所は、少しずつでも土づくりを重ねていきたいと考えています。
この経験を通して、私たちは多くのことを学びました。
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土づくりの重要性: 作物栽培において、何よりも土が重要であることを痛感しました。良い土がなければ、いくら良い種や苗、肥料を使っても、望むような収穫は得られません。
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自然の力: 雑草や緑肥といった植物の持つ土壌改良能力の高さに驚かされました。人間の手でできることには限界がありますが、自然の力を借りることで、不可能だと思われたことも可能になることを学びました。
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忍耐と継続: 土づくりは一朝一夕にできるものではありません。数年単位の計画と、地道な作業の継続が不可欠です。
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理解を得ることの難しさ: 多くの人が農業に対する一般的なイメージを持っているため、私たちの「畑を休ませる」土づくりに対して理解を得ることが難しい場面も多々ありました。しかし、私たちは自分たちの信じる道を突き進むしかありません。
これからの展望
現在、ナスが育っている畑は、まさにこの試行錯誤の結果です。
収穫したナスは、震災からの復興と、私たちの日々の努力の証でもあります。
これからも、私たちは残された約8割の土地についても、焦らず、しかし着実に土づくりを続けていきたいと考えています。
時間はかかるかもしれませんが、いつかその全ての土地が豊かな畑となり、地域の食を支える一助となれることを願っています。
私たちの取り組みが、震災後の土地利用や土づくりに悩む方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。
そして、もし私たちが「荒らしている」ように見えても、その裏には確固たる意図と、未来への希望があることをご理解いただければ幸いです。