私が覚えている限りでは、10年以上前から「現代の野菜は化学肥料をたくさんつかっていることが原因でミネラルが不足している。」という内容のブログがありました。
農業関係の学会では2008年頃から「食とミネラル」をテーマにした論文やシンポジウムが開かれ、2009年の「農産物ミネラルと人の健康」という論文では、堆肥の投入が土壌のミネラル補給に役立つ可能性があることを述べ、今後の研究に期待が寄せられました。
(ミネラルの研究自体は1970年台からされていました)
最近では、土壌分析をして微量元素などの数値を把握し、不足している微量元素を補給することで「理想の」野菜を育てることを推奨する団体も出てきています。
ミネラル成分を多く含んだ肥料を使い、ミネラルたっぷりの野菜を育て、それを食べることで人も健康になる。
「理想の」(=ミネラルたっぷりの)野菜を育てるには、自然栽培も含めた有機栽培が最も良い方法である。
そんな話があちこちから聴こえてきます。
今回はこの「土壌とミネラル不足」という問題を見ていきたいと思います。
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なんで化学肥料を入れるとミネラル不足になるの?
現代の野菜は化学肥料をたくさんつかっていることが原因でミネラルが不足している、という話はかなり昔から言われていました。
私が調べた範囲では、1990年代頃には「畑はミネラルが不足しているのでミネラルを入れるべし」という内容の記事がありました。
何故、化学肥料を入れるとミネラル不足になると言われているのでしょう?
「よく現代農業は効率化を求めすぎ、化学肥料をたくさん使ったことで、土壌を汚染、ミネラルが不足してしまった」という内容を多く見かけますが、私はちょっと違うかなと思っています。
ミネラルが不足するのは次の3つが主な原因と考えています。
要素間の拮抗作用
植物に必要な栄養素の間には拮抗作用があります。
例えば、硝酸が多いと鉄の吸収が抑制されたり、カリウムが多いとカルシウムやマグネシウムなどの吸収が抑制されたり。
土の養分バランスが保たれていないと、植物が養分を吸収する際に偏りが生じてしまう可能性があるのです。
なので、化学肥料で窒素やリン酸、カリウムだけを施用している場合には、他の要素の吸収が抑制されてしまう場合があるんです。
土のpH
土壌pHによっても吸収しやすい養分、吸収しにくい養分があります。
例えば、土がアルカリ性に傾いている時は、鉄やマンガンといって養分が吸収されにくくなる、といった具合です。
微生物の働き
土には養分がたくさんあるけれども、何かしらの要因で植物が吸収できていないということもあります。
特に土の中に微生物が少ない場合、土の養分を植物が吸収しやすい形にしてくれる微生物が少ないと、このような状況になることがあります。
化学肥料のみを使う畑では、微生物が餌となる有機物が少なく微生物が死んでしまうため、数が少ないと言われています。
他にも天候不順、異常気象で植物がダメージを受けた場合も根が傷んだり生育不良を起こして、土の養分をしっかり吸収できない場合もあります。
ミネラルは施肥しないといけないのか?
植物がミネラルを充分に吸収できない要因には主に3つあると述べましたが、ミネラルは施肥しないといけないのでしょうか?
現段階では、ミネラル肥料は必要ないという研究者も多く、むしろ多用することでミネラル過剰になることに警鐘を鳴らしています。
しかし、個人的には土壌分析等を行った上で、施肥したほうがいいと考えています。
これは自分自身これまで経験してきた中で感じること、師匠から教わったこと、色んな本や論文から得た情報をすべて踏まえた上での考えです。
農作物を育てていく上では、農作物が栄養素をしっかり吸収して育つ分、何かしらの栄養素が土の中で不足します。
この不足した分をきちんと与えないと、健康的には育ってくれないんです。
長年、有機栽培や化学農薬不使用で取り組んできた先輩も「うちの畑で○○を育てると、マグネシウムだけは不足してしまうから与えてやらにゃいかん」と話していました。
肥料を入れたら入れた分だけ植物が吸収するかと言うとそういうわけでもなく、土の物理性(硬さ、水はけの良さ等)や微生物の働きも関わってくるので、いつも「土作りって難しいなあ」と思っていますが…。
ミネラルは堆肥で補えるか?
土にミネラルを与えることが大事だというのはなんとなく伝えられたのかなと思いますが、ミネラルを補給したい場合、堆肥でOKなのかという点について少し見ていきたいと思います。
現時点では、堆肥を撒く=ミネラルの補給には至らないと考えられています。
というのも、いくつかの研究報告で堆肥の施用がミネラル欠乏を招いていた、ということが明らかになっています。
堆肥にもミネラル分は含まれているけれども、堆肥中の微生物の働きが活発になることで結果的にミネラル不足に陥ってしまう、というのです。
堆肥の投入がミネラル補充に繋がる、という研究報告もありますが、あくまで「補助的」である可能性が高いです。
このことから、ミネラルはミネラルで必要なものを適量与えてあげる必要があります。
最後に
いかがでしたか?
化学肥料を使うことで土が痩せ、ミネラルが不足している?という話題を見てきました。
ミネラルが不足する主な原因には3つあり、土の栄養バランスが悪いこと、土壌pH、微生物の働きが関わってきます。
土壌のミネラルを補う場合は、ミネラルが含まれている肥料を与えてあげることが大切です。
このミネラルについては、化学肥料を使う農家でもミネラル肥料を与えている人が多いです。
ですので、化学肥料を使う農家の農作物=ミネラル不足の農作物とはなりにくいと考えています。
個人的には、農法の問題ではなく、「旬」の農作物を食べているか否かの問題のほうがミネラル不足には大きいのでは?と思います。
私たち農園としても、ミネラルをしっかり吸収して健康に育つ野菜の育て方を極めていきます。