その農法、本当に良い? 農業の基礎を見つめ直す時

「自然農法」「有機農法」「〇〇式農法」…インターネットや書籍を開けば、多種多様な農法が目に飛び込んできます。「自然農法だから安心・安全」「有機農法なら間違いない」「〇〇式農法で作られた野菜は栄養満点!」そんな謳い文句につい惹かれ、農法を基準に野菜を選んだ経験はありませんか?

しかし、現実はどうでしょうか。「自然農法と聞いて買ったのに、なんだか美味しくなかった」「有機農法だから無農薬だと思っていたのに、そうではなかった」「こだわりの〇〇式農法の野菜なのに、虫食いだらけ…」期待外れの野菜に、がっかりした経験を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

もしかしたら、私たちがこれまで頼ってきた「農法」という基準そのものが、時代遅れになりつつあるのかもしれません。

先日、「BLOF理論講座」に参加した農園MITUの佐藤が、自身の学びを通して、これからの農業、そして農作物の選び方について深く掘り下げていきます。

知られざる真実。BLOF理論とは何か?

有機農業の世界では知らない人はいないと言われる小祝政明氏が提唱する「BLOF理論」。BLOFとは、Bio Logical Farming(生態系調和型農業理論)の略称です。この理論の画期的な点は、従来の農家の勘や経験に頼るのではなく、科学的な根拠に基づいた方法で農作物を育てるという点にあります。

その具体的な手法は、まず徹底的な土壌分析から始まります。土壌の栄養状態を詳細に把握し、不足しているアミノ酸やミネラルを的確に補給します。さらに、「太陽養生処理」と呼ばれる独自の技術で土壌をふかふかにすることで、病害虫の被害を大幅に減らし、高品質かつ高収量の作物を実現するのです。

筆者である佐藤が小祝先生の理論に出会ったのは、2005年頃に出版された書籍『有機栽培の基礎と実際』でした。当時、有機農業に関する書籍といえば、実践的な農家のノウハウを紹介するものが多かった中で、小祝先生の本は科学的な説明が豊富で非常に分かりやすく、それ以来、出版されるたびに読み込んできたと言います。

ここで具体的なBLOF理論の詳細な方法に触れることは避けますが、重要なのは、BLOF理論が単なる「農法」の枠に収まらないということです。植物生理学や土壌学といった科学的な知識を深く理解し、その上で作物一つひとつに合わせた肥料設計(肥料の種類や量、施肥のタイミングなどを計画すること)を行う。これこそがBLOF理論の核心なのです。

適切な肥料設計に基づき、アミノ酸肥料やミネラル肥料を施し、土壌を健康な状態に保つことで、作物は自然と病気や害虫の被害を受けにくくなります。植物自身が持つ力を最大限に引き出すことで、農薬や化学肥料に頼らずとも、質の高い作物が豊かに実るのです。

さらに、BLOF理論は、大量の有機質肥料や家畜糞堆肥に頼らないため、環境への負荷を低減しながら、安定した収益を農家にもたらす可能性を秘めています。この講座を通して佐藤は、「農法」という表面的なテクニックを追いかけるのではなく、作物を注意深く観察し、その生育に必要な要素を理論的に考えることの重要性を改めて認識したと言います。

いつしか「農法」という言葉だけが独り歩きしてしまった

1980年代の有機農業ブーム以降、「農法」という言葉だけが先行してしまった印象は否めません。ある農学系の研究者は、当時の状況をこう分析します。「ブームとは裏腹に、有機農業の技術や理論はまだ未発達でした。全国各地で有機農業に取り組んでいた先駆者たちの実践を、後発の農家が模倣する形で広まっていったため、科学的とは言えない方法も多く見られました」。まさに、農家も研究者も試行錯誤を繰り返していた時代だったのです。

実際に、有機農業に関する論文や研究を調べてみても、栽培技術や理論に焦点を当てたものは、ここ10〜15年の間に発表されたものが多く、それ以前は、有機農業と慣行農業の土壌の違いや野菜の栄養価の比較、環境への影響、あるいは有機農業運動そのものに関する研究が中心でした。

このような背景から、「農法」という言葉だけが先行し、具体的な栽培方法や理論が曖昧なまま広まってしまったと考えられます。生産者ごとに異なる育て方がまかり通り、結果として、「農法」の定義や位置づけが非常に曖昧になってしまったのです。

例えば、「自然農法」という言葉一つを取っても、その定義は提唱する団体や実践する農家によって大きく異なります。ある団体は不耕起・無肥料を絶対とする一方で、別の団体は最小限の耕起や施肥を容認するなど、そのアプローチは多岐にわたります。農家の間でも、「〇〇派の自然農法は素晴らしいが、△△派のそれは違う」といった意見の対立も珍しくありません。

もう「農法」で選ぶのは終わりにしよう

畑での日々の作業や、お客様との会話を通して、筆者の佐藤は強く感じるようになったと言います。「もう、農法という名前だけで野菜を選ぶ時代は終わったのではないか」と。BLOF理論講座で小祝先生が強調していたように、これからの農家にとって本当に大切なのは、「農法」を学ぶことではなく、「農学」を学ぶことなのです。

もちろん、自然農法の中にも、「自然(植物)と真摯に向き合うこと」の重要性を説く考え方もあります。しかし、その根底にあるべきは、植物がどのように生長し、どのような栄養素を必要とし、体の中でどのような変化が起こるのかといった科学的な理解です。その知識をベースに、実際の畑で農作物を注意深く観察し、それぞれの生育段階に合わせて必要なサポートをしていく。これこそが、本質的な農業のあり方ではないでしょうか。

「野菜作りは誰にでもできる」という言葉を耳にすることがありますが、それは大きな誤解だと筆者は言います。なぜなら、農作物は私たち人間が作り出すのではなく、自然の力によって自ら育つものだからです。私たちができるのは、その生育の過程を注意深く見守り、作物が健康に、そして力強く育つための手助けをすることに過ぎません。

健康に育った野菜は、本来、病害虫にも強く、過剰な化学肥料や有機質肥料に頼る必要もありません。もちろん、農薬の使用も最小限に抑えることができます。この「作物が自ら育つ力を最大限に引き出す」という考え方が、農園MITUの根幹にあると言います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?これまで私たちが何気なく頼ってきた「農法」という言葉の奥にある、より深く、そして科学的な視点について考えるきっかけとなれば幸いです。有機農法や自然農法といった「農法」の名前にこだわるのではなく、その農作物がどのように丁寧に観察され、健康に育つためのサポートがされているのか。そんな視点を持って、これからお米や野菜を選んでみてはいかがでしょうか。

では、実際にどのように野菜を選べば良いのか?具体的な選び方については、また別の機会にじっくりと掘り下げていきたいと思います。

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