「無肥料栽培」という言葉の奥深さ:誤解と真実、そして持続可能な農業への道

MITUの佐藤です。

皆さんは「無肥料」で育てられた野菜と聞くと、どのような栽培方法を想像するでしょうか?
多くの方が、文字通り「畑に何も入れない」というイメージを持つかもしれません。
もちろん、中にはそうした方法で野菜を育てている方もいらっしゃるでしょう。

しかし、「無肥料」という言葉は、実はもっと広範な意味合いで使われていることが多いのです。
今回は、この「無肥料」という言葉が持つ複雑さと、それに伴う誤解について掘り下げていきたいと思います。

自然農法と「無肥料栽培」:言葉の定義の曖昧さ

私たちの農園「自然農園」という名前を聞いて、「自然栽培なんですね?肥料や農薬は一切使わないんですよね?」と尋ねられることがあります。

*2025年現在、栽培方法を変えたことから自然農園と名乗るのは辞めています。

MITUでは、緑肥栽培を軸に野菜を育てていますが、土壌の状態が思わしくない畑、特に仙台沿岸部の被災農地などでは、堆肥やアミノ酸肥料、ミネラル肥料といった資材を使用しています。
私たちの根底にあるのは、「土をどのように育てれば、健康で力強い野菜が育つのか?」という問いに対する探求心です。

時折、「それって自然栽培じゃないじゃないか!」と指摘を受けることもあります。
しかし、「自然栽培」「自然農法」「有機農法」といった言葉は、その定義が非常に幅広く、解釈が難しいのが現状です。
あまりに多様な解釈が存在するため、MITUではこれらの言葉の厳密な定義や栽培方法に固執せず、あくまで「野菜を健康に育てる」という一点に焦点を当てています。

似て非なる栽培方法:広がる解釈の多様性

過去のブログでも触れましたが、現代には「自然栽培」「自然農法」「無肥料栽培」など、様々な農法に関する言葉が飛び交っています。そして、それぞれの農法には提唱者が存在し、その考え方や捉え方は多岐にわたります。

「無肥料栽培」とは何か?:岡本よりたか氏の提唱する新たな視点

さて、今回のテーマである「無肥料栽培」という言葉で、近年特に注目を集めている農家の一人に岡本よりたかさんがいらっしゃいます。
岡本さんが提唱する「無肥料栽培」は、一般的にイメージされるような「畑に何も入れない」栽培とは異なります。
彼は、草木灰や雑草堆肥、ぼかし液肥といった自然由来の資材を活用する栽培方法を「無肥料栽培」と捉えているのです。

岡本氏の考えによれば、「無肥料栽培」とそうでない栽培の大きな違いは、自然界に存在するものを利用した循環型農業の実践にあります。
つまり、植物由来の資源を肥料として活用し、土壌の生態系を豊かにすることで、作物の生育に必要な養分を自然の力で賄うという考え方です。
一方、化学肥料や家畜ふん堆肥など、人工的に製造された肥料や動物性の資材を用いる栽培は、「無肥料栽培」とは区別されます。

かつては、真の意味での「無肥料栽培」、つまり畑に一切の資材を投入しない方法で新規就農した方もいましたが、多くは数年で農業を断念しています。
科学的な視点からも、また経験豊富な無肥料栽培の実践農家からも、よほど恵まれた自然環境(例えば、周囲の森林から落ち葉などが自然に堆肥化するような場所)でない限り、完全な無肥料での栽培は極めて困難であるとされています。

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自然農法とは?:岡田茂吉氏の提唱する自然の摂理に沿った農法

一方、「自然栽培」や「自然農法」と呼ばれる農法は、どのような考えに基づいているのでしょうか。
岡田茂吉氏が提唱した自然農法では、堆肥や土壌改良材の使用を完全に否定しているわけではありません。その根底にあるのは、あくまで自然の摂理に沿った作物の育て方という思想です。

例えば、草一本生えないような痩せた土地で、堆肥や肥料を一切使わずに作物を育てることは現実的に不可能に近いでしょう。
自然農法では、土壌を時間をかけて改良し、より自然に近い状態を目指しながら作物を育てることを重視します。
そのため、土壌の状態を改善するために、必要に応じて堆肥などの資材を使用することも容認されています。

「無肥料栽培」と「自然農法」は、「自然の摂理に沿った育て方」という点で共通の基盤を持っていますが、土壌を育成するためにどのような資材を用いるかという点で、わずかな違いが見られます。

「無肥料栽培」という言葉の難しさ:広がる誤解と認識のずれ

近年、「無肥料」という言葉は、オーガニックスーパーやインターネット通販、農産物直売所、さらには一般的なスーパーマーケットでも見かける機会が増えてきました。
しかし、私はこの「無肥料」という言葉に対して、違和感とともに言葉の持つ難しさを感じています。

岡本さんをはじめとする「無肥料栽培」を実践する農家の方々の考えや情熱は、深く共感できるものです。
しかし、「無肥料」という言葉が持つ一般的な解釈は、実践者側の意図とは大きくかけ離れているのではないでしょうか。
多くの消費者は、「無肥料」と聞くと、文字通り「何も肥料を与えない」栽培方法だと理解してしまうでしょう。

広辞苑で「肥料」という言葉を調べてみると、以下のように定義されています。

土地の生産力を維持増進し作物の生長を促進させるため、普通は耕土に施す物質。窒素・リン酸・カリをその3要素という。成分、性質、施肥形態などのちがいから有機肥料・無機肥料、直接肥料・間接肥料、速効性肥料・緩効性肥料などに分ける。広義には土壌改良資材も含む。こやし。

この定義によれば、緑肥もぼかし肥料も米ぬか堆肥も、すべて土壌改良資材であり、広義の意味では「肥料」に含まれることになります。

改めて申し上げますが、「無肥料栽培」を実践されている農家の方々の想いや取り組みを否定するつもりは全くありません。
しかし、広辞苑などの辞書にも明記されているように、どのような形であれ畑に土壌改良資材を投入することは、「無肥料栽培」と呼ぶには無理があるのではないかと私は考えます。

実際、私たちの農園に野菜を買いに来られるお客様の中にも、「無肥料栽培」と聞くと「肥料を一切使わない」と考える方が大半です。ここに、実践農家と消費者の間で、言葉の解釈に大きな隔たりが生じている現実があります。

MITUとしての考え:土壌の健康を第一に

MITUでは、繰り返しになりますが、「健康に育つ野菜を育てるためには、土をどのようにすれば良いのか?」という問いを常に念頭に置き、緑肥や堆肥、アミノ酸肥料などを活用しています。

私たちは、特定の農法の名称やその厳密な定義に固執して野菜を育てているわけではありません。
むしろ、「自然農法」「自然栽培」「無肥料栽培」といった言葉は、解釈の幅が広すぎるため、積極的に使用しないように心がけています。

おわりに:「無施肥栽培」の言葉の向こう側にあるもの

いかがでしたでしょうか?もし今後、「無施肥栽培」と表示された農作物を見かけることがあれば、ぜひその生産者の方に、どのような方法で育てているのかを直接尋ねてみてください。きっと、その言葉の奥にある、土への深い愛情と持続可能な農業への真摯な取り組みを知ることができるはずです。

「無肥料」という言葉は、一見シンプルでありながら、その背景には多様な考え方と実践が存在します。
この言葉を通して、私たちは改めて土壌の大切さ、そして食と農のあり方について深く考えるきっかけを得られるのではないでしょうか。

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