久しぶりのブログ更新となりました。秋冬野菜の植え付けに追われている間に、すっかり季節は秋へと移ろいましたね(笑)。
今回は、読者の皆様から度々お問い合わせいただく「なぜ、仙台沿岸の圃場整備後の畑の土は良くないのか?」という疑問について、私がこれまで試行錯誤してきた経験に基づいた見解を共有したいと思います。
この記事を読むことで、
- 仙台沿岸の農地の現状を深く理解できる
- MITUがどのように土作りと格闘しているのかを垣間見ることができる
- あなたの畑の土作りにも役立つヒントが得られる(かもしれません!)
Table of Contents
震災後の農地で何が起こったのか?
東日本大震災後、仙台沿岸地域の農地は、主に三段階にわたる工事を受けました。
第一段階は、震災から約2年後に行われた復旧工事です。
この時、農地の表土が20〜30cmほど入れ替えられました。
しかし、その土がどこから来たものなのかは不明確で、多くのガレキが混入しており、多くの農家から不満の声が上がったと聞いています。私の畑からも、アスファルトの破片をはじめとする様々な瓦礫が出てきました。
第二段階は、2017〜2018年に行われた震災復興に向けた圃場整備事業です。
この工事では、既存の土壌の上に約1mもの盛土が行われ、さらに震災ゴミの焼却灰が散布されるという、当初の計画とは大きく異なる内容でした。
計画では、表土を一部除去し、新たな土を30cm程度盛り土して元の土と馴染ませることで、早期に生産性の高い畑を目指すとされていましたが、実際にはその通りにはなりませんでした。地域の圃場整備事業の調整役を務めていた農家の方も、計画の変更に驚いていたほどです。
第三段階は2018年、圃場整備後の畑の水はけが悪かったために実施された暗渠工事です。これにより、土の80cm下まで排水を促すための管が埋設されました。
圃場整備後の畑が抱える問題点
これらの工事の結果、圃場整備後の畑の土壌状態は決して良好とは言えず、作物を植えてもなかなか順調に育たないという問題を抱えています。
普及センターや土壌研究の専門家によると、「畑」として機能する土壌になるまでには、一般的に5年から10年の歳月が必要とのことです。
この原因を探るため、畑の観察や調査を行い、様々な方から意見を伺いました。その結果、大きく分けて以下の3つの要因が土壌不良を引き起こしていると考えられます。
1. 土の硬さ(耕盤の存在)
圃場整備後の畑には、耕盤と呼ばれる硬い土の層が複数存在します。
私の畑では、深さ40cm、60〜70cm、そして約1mの地点に硬い層が確認されました。
この耕盤は、雨水を地中深くまで浸透させるのを妨げ、その結果、水が滞留したり、横方向に流れ出して法面を崩したりする原因となります。
また、排水不良は植物の根腐れを引き起こしやすく、カビなどの病原菌が繁殖しやすい環境を作り出します。
暗渠工事によって80cm下の排水性は改善されたものの、その上層に存在する耕盤が水の流れを阻害しているのが現状です。
2. pHの高さ(アルカリ性土壌)
他の生産者の畑の状況は一概には言えませんが、私が借りている畑はpH(土壌酸性度)がかなりアルカリ性に偏っています。
一般的に、作物の生育に適したpHは6.5程度とされていますが、私の畑では最初の年でpH7.8前後、2020年の時点でも7〜7.2を示しており、微アルカリ性の状態です。
なぜpHが高いと作物の生育に悪影響があるのでしょうか。
アルカリ性土壌では、リン、マンガン、鉄、ホウ素といった重要なミネラルが植物に吸収されにくい形に変化してしまうため、生育不良を引き起こします。
さらに、中性からアルカリ性の環境で発生しやすい病害も増加する傾向があります。
pHが高くなった原因はまだ特定できていませんが、盛土に使用された山砂のpHが一般的に5.5〜6.5であることを考えると、作付け前にpHが7.8前後まで上昇しているのは、盛土の際に散布された焼却灰が一因である可能性が高いと考えられます。
補足:pHの違いがミネラルの吸収に与える影響
土壌pHは、植物が必須ミネラルを効率的に吸収できるかどうかに大きな影響を与えます。
それぞれのミネラルには、最も吸収されやすいpH範囲が存在し、pHがその範囲から大きく外れると、ミネラルが土壌中で不溶化したり、他の元素と結合して植物が吸収できない形になったりします。
- 窒素(N): 比較的広いpH範囲で吸収されますが、極端な酸性やアルカリ性では硝化作用や脱窒作用が阻害されることがあります。
- リン(P): 最も吸収されやすいpH範囲は弱酸性〜中性(pH6.0〜7.0)です。酸性土壌では鉄やアルミニウムと結合して不溶性のリン酸塩を形成し、アルカリ性土壌ではカルシウムと結合して吸収されにくくなります。
- カリウム(K): pHによる吸収への影響は比較的少ないですが、極端な酸性条件下では流出しやすくなることがあります。
- カルシウム(Ca): 中性〜弱アルカリ性で吸収されやすいですが、酸性土壌では不足しやすくなります。
- マグネシウム(Mg): 中性〜弱アルカリ性で吸収されやすく、酸性土壌ではアルミニウムとの競合により吸収が阻害されることがあります。
- 鉄(Fe)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu): 微量要素ですが、植物の生育に不可欠です。これらは酸性条件下で可溶性が高まり吸収されやすくなりますが、pHが高すぎると不溶化して吸収されにくくなります。特に、アルカリ性土壌では鉄欠乏による葉の黄化(クロロシス)が発生しやすいです。
- ホウ素(B)、モリブデン(Mo): ホウ素は弱酸性〜中性で、モリブデンは中性〜アルカリ性で吸収されやすい傾向があります。
このように、土壌pHは植物が必要とする様々なミネラルの溶解度や化学形を変化させ、その吸収効率に大きな影響を与えます。
そのため、栽培する作物に適したpH範囲に土壌を調整することが、健全な生育と収量確保のために非常に重要となります。
3. 有機物の不足
圃場整備後の畑は、栄養分だけでなく、土壌の物理性を改善するために不可欠な有機物も極めて少ない状態です。
土壌分析に基づいて不足している栄養分を補給することは比較的容易ですが、有機物を増やし、ふかふかの団粒構造を持つ土壌へと改良するには、長い時間と継続的な努力が必要です。
畑に有機物を継続的に投入することで、土壌微生物が活発に活動できる環境が整い、微生物の働きによって土の粒子が結合し、団粒構造が形成されます。
団粒構造の発達した土壌は、通気性や排水性、保水性が向上し、植物の根にとって理想的な生育環境を提供します。
また、一部の微生物は、植物が吸収しにくい無機態の養分を、吸収しやすい有機態へと変換する働きを持ち、植物の栄養吸収を効率的にサポートします。
さらに、有機物の分解によって生成される腐植は、土壌の保肥力を高め、肥料成分を保持する能力を高めます。
また、土壌のpHの急激な変化を緩和する緩衝作用や、重金属などの有害物質を吸着する機能も持っており、土壌環境を総合的に改善する上で非常に重要な役割を果たします。
一般的な土作りの方法
ここで一般的な土作りについて取り上げたいと思います。
土作りは、作物が健康に生育するための土壌環境を整える一連の作業です。
その基本は、物理性、化学性、生物性のバランスを改善することにあります。
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耕うん・整地: 土を耕すことで、土壌の通気性、排水性を改善し、作物の根が伸びやすい環境を作ります。耕うんの深さや頻度は、栽培する作物や土壌の状態によって調整します。耕うん後には、畝を立てたり、表面を平らにしたりする整地作業を行い、播種や植え付けの準備をします。
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土壌改良: 必要に応じて、土壌の物理性や化学性を改善するための資材を投入します。例えば、粘土質の土壌には砂や有機物を混ぜて排水性を高め、砂質の土壌には有機物を加えて保水力と保肥力を向上させます。pH調整には、酸性土壌には石灰、アルカリ性土壌には硫黄華などが用いられます。
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施肥: 作物の生育に必要な栄養分を供給するために肥料を施します。肥料には、有機肥料と化学肥料があり、それぞれに特徴があります。有機肥料は、緩効性で土壌改良効果も期待できますが、効果が現れるまでに時間がかかります。化学肥料は、速効性があり、必要な栄養素をピンポイントで供給できますが、過剰な施用は土壌環境を悪化させる可能性があります。
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有機物の投入: 堆肥や緑肥などの有機物を投入することは、土作りにおいて非常に重要です。有機物は、土壌の団粒構造を促進し、通気性、排水性、保水性を高めます。また、微生物の活動を活発にし、養分の循環を促します。
土壌へ有機物を入れる重要性
前述の通り、土壌に有機物を投入することは、持続可能な農業を行う上で不可欠です。その重要性を改めて整理します。
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物理性の改善: 有機物は土の粒子を団粒化し、隙間を作ることで、通気性と排水性を向上させます。同時に、有機物自体が水分を保持する能力も高いため、保水性も向上します。これにより、根は酸素を十分に吸収でき、過湿や乾燥によるストレスを軽減できます。
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化学性の改善: 有機物は、微生物によって分解される過程で、作物が吸収しやすい無機養分を徐々に放出します。また、有機物は陽イオン交換容量(CEC)を高めるため、土壌が養分を保持する能力が向上し、肥料成分の流出を防ぎます。さらに、有機物は土壌のpHを緩やかに変化させる緩衝能を持ち、急激なpH変化から作物を守ります。
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生物性の向上: 有機物は、土壌微生物の餌となり、その活動を活発にします。多様な微生物の存在は、土壌病害の抑制や養分の循環を促進し、植物の生育を健全に保ちます。例えば、根に共生する菌根菌は、植物のリン酸吸収を助け、病害抵抗性を高める効果があります。
より良い土壌を目指して:MITUの試行錯誤
では、これらの問題をどのように解決していくべきでしょうか?現在も試行錯誤の段階ではありますが、MITUで取り組んでいる具体的な方法をご紹介したいと思います(もし他に効果的な方法をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただきたいです!)。
1. 硬い耕盤の破壊
耕盤を物理的に破壊する方法としては、機械を使った深耕や、穴あけ器による穿孔が考えられます。
機械耕うんでは、深い層の耕盤まで完全に破壊することが難しい場合があるため、MITUではシンプルながらも効果的な方法として、手作業による穴あけ器を用いた穿孔を地道に行っています。
一つの畑に何十箇所も穴を開ける作業は大変ですが(汗)、継続することで徐々に畑の排水性が改善されてきました。
2. 高すぎるpHの是正
土壌のpHを下げるのは非常に難しい作業であり、現時点では、アルカリ性の資材を一切畑に投入しないこと、そしてpHを下げる効果のある肥料(ただし、多くは化学肥料です)を部分的に使用しながら、酸性雨による自然なpH低下を待つという状況です。MITUの畑では、有機質肥料の中でも石灰分を多く含む鶏糞などの使用は極力避けています。
3. 有機物の増強
有機物を増やすという対策自体は単純で、文字通り有機物を継続的に投入していくことです。
しかし、難しいのは「どのような有機物を、どのくらいの期間に、どのくらいの量を投入するのか」という点です。文献を調べたり、地元のベテラン農家の方々に話を聞いても、その意見は様々です。例えば、堆肥の施用量一つをとっても、10aあたり10tが良いという意見もあれば、最大でも2tが限度だという意見もあります。また、牛糞堆肥、わら堆肥、馬糞堆肥、緑肥、バーク堆肥など、推奨される有機物の種類も多岐にわたります。
MITUでは、様々な有機物を試験的に使用した結果、現時点では、県内で生産されている馬糞堆肥、牛糞堆肥、そして郷の有機という堆肥(牛糞にわかめなどの海藻の残渣物、籾殻、おがくずなどを配合したもの)を、10aあたり最大2tを目安に定期的に投入し、加えてソルガムなどの緑肥を畑に鋤き込む方法を継続していくのが良いのではないかと考えています。
過去には、わら堆肥や他の家畜の堆肥も試しましたが、カビ菌が多く野菜が病気になりやすかったり、私の畑との相性があまり良くなかったため、現在は使用を控えています。
毎年少しずつ土壌の状態は改善してきていると感じていますが、作物がしっかりと育つようになるまでには、まだ時間がかかるかもしれません。今後も様々な方法を模索しながら、根気強く土作りを進めていきたいと考えています。
このブログが、仙台沿岸の農地の現状や、土作りにおける課題、そしてその改善に向けた取り組みについて理解を深める一助となれば幸いです。引き続き、土壌改良の試行錯誤の過程や、新たな発見があれば、このブログで共有していきたいと思います。