多様性から深みへ:農業における「選択と集中」という決断

宮城県仙台市の沿岸部で、年間50種類以上の野菜を少量多品目で育ててきたMITU。
新規就農を志す方の中には、有機栽培と少量多品目、そして彩り豊かな野菜セットというイメージを抱いている方も多いかもしれません。
しかし、実際に少量多品目栽培の現場に身を置くと、単一あるいは少品目栽培とは異なる現実が見えてきます。

MITUもまた、少量多品目栽培から品目を絞るという決断に至りました。
このブログでは、その経緯を辿りながら、少量多品目栽培の現状と、品目を絞ることによる生産者と消費者の双方にとってのメリット、そして農業以外のビジネスにおける「選択と集中」の重要性について考察していきます。これから少量多品目栽培を目指す方、あるいは多様な野菜セットに魅力を感じている方にとって、一つの参考となれば幸いです。

なぜ今、「選択と集中」なのか?農業現場からの叫び

結論から申し上げます。長年の農業経験を通して、私は「農業においても選択と集中が不可欠である」と痛感しました。

生産者の視点で見れば、品目を絞ることで一つ一つの作業に深く集中でき、結果として畑の管理が行き届き、天候不順や災害といった予期せぬ事態にも対応しやすくなります。
それは、安定した収穫量と高品質な野菜の生産へと繋がり、経営の安定化、そしてお客様へのより良い商品提供へと繋がります。

一方、消費者の視点からも、品目を絞り、手間暇をかけて育てられた野菜は、比較的安定して供給される可能性が高く、その土地や気候に合った方法で丁寧に育てられた結果、栄養価の高い美味しい野菜である可能性を秘めていると言えるでしょう。

少量多品目栽培の光と影:見過ごせない悪循環

少量多品目栽培は、一見すると多様なニーズに応えられ、リスク分散にも繋がる魅力的な栽培方法に見えます。しかし、その裏側には、生産者が陥りやすい悪循環が存在します。

品目が多いということは、それぞれの作物にかけられる時間がどうしても限られてしまいます。
結果として、栽培技術の向上が遅れたり、時間に追われる中で畑の管理が行き届かなくなったりするのです。
これは、収穫量や品質の低下を招き、生産者は経営を維持するための費用捻出に苦労することになります。

このような状況下で、「規模拡大によってこの状況を打破しよう」と安易に栽培面積を増やしてしまうと、さらに管理が行き届かなくなり、悪循環から抜け出せなくなる可能性があります。
MITUも、まさにそのような状況に直面していました。

MITUが「選択と集中」へ舵を切った理由

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大、度重なる天候不順、そして野菜の価格大暴落など、農業を取り巻く環境は激動の一年でした。
MITUも例外ではなく、大きな影響を受け、事業の再建を迫られる状況となりました。

このような現状を踏まえ、私たちは少量多品目栽培から大きく舵を切り、作付け品目を思い切って絞り込み、選りすぐった作物に集中するという決断を下しました。
その背景には、以下の3つの理由があります。

1. 身土不二の視点:土地が求める作物へ

「身土不二(しんどふに)」とは、元々は仏教の言葉で、「その土地で採れた旬のものを食べて生活することが、身体にも良い」という意味合いで使われる言葉です。この言葉を改めて深く考えました。

仙台沿岸部の畑は、その多くが砂質土壌であり、水はけが良い一方で、保肥力が低いという特徴があります。
もちろん、圃場整備された畑でも、場所によってその性質にはばらつきがありますが、基本的には砂に近い土壌が多いのです。

土壌の性質によって、育ちやすい野菜とそうでない野菜があります。一般的に、砂質の畑には根菜類(人参や大根)、ブロッコリー、豆類などが適していると言われています。

MITUでも、これまで様々な野菜を試行錯誤しながら栽培してきました。
その中で、私たちの畑で特に良く育つのは、人参、さつまいも、落花生、ブロッコリーであるということが明確になってきました。それぞれの畑の微妙な癖を完全に把握するまでには長い時間を要しましたが、「この畑は人参向きだ」「ここは水が抜けにくいから〇〇を植えよう」といった判断ができるようになってきたのです。

砂質という土地の特性に合った作物に絞り込み、その栽培に集中的に取り組むことで、より高品質で美味しい野菜をお客様にお届けしたいと考えました。

2. 農福連携の強化:共に成長できる環境づくり

もう一つの重要な理由は、農福連携の強化です。
近年、新たな福祉施設との連携が増え、農業研修を希望する個人の方も増えてきました。
そのような中で、少量多品目栽培では、指導する側の負担が大きく、研修生の方々も多くの作業を覚える必要があり、なかなか作業が進まないという課題を感じていました。

これまでは、連携していた福祉施設が自ら畑を借りて野菜を栽培していたこともあり、作業の打ち合わせや活動も比較的スムーズに進んでいました。
しかし、新たに見学や問い合わせに来られる施設の中には、農業経験が全くないというケースも少なくありません。
そのような場合、一つ一つの作業を丁寧に指示し、指導していく必要があり、少量多品目では覚える工程が多く、作業に参加できる機会が限られてしまうのです。

そこで、作付け品目を1〜2品目に絞り、その管理作業をしっかりと覚えてもらう方が、お互いにとってより効率的であると考えました。
一つの作物の栽培面積を増やすことで、結果的に受け入れられる研修生の人数も増やすことができ、より多くの人々と共に成長できる環境を築きたいという思いがあります。

3. 美味しさへの原点回帰:一つ一つに真心を込めて

正直なところ、少量多品目栽培を行っていた時期は、日々の目の前の作業に追われ、どうしても対応が後手に回ってしまうことが多くありました。
その結果、収穫量も品質も不安定になり、「美味しい野菜を届けたい」という想いだけが先行し、中身が伴わない状況に陥っていることに気づかされました。

そこで、私たちは原点に立ち返り、作物を絞り込み、一つ一つの野菜に真心を込めて育てることに専念しようと決意しました。

新たなMITUの挑戦:厳選された野菜たち

以上の理由から、今後のMITUは以下の品目に絞って栽培に取り組んでいきます。(2021年時点)

【MITUスタッフメイン野菜】

  • 人参: 7月〜翌年3月頃販売
  • さつまいも: 10〜11月販売
  • ブロッコリー: 10月〜翌年1月販売
  • ヤーコン: 11月〜翌年2月販売
  • とうもろこし: 7,8月販売

【別枠】

  • ソルガムシロップ: 現在、鋭意商品開発中

【農福連携スタッフメイン作物】

  • 枝豆: 7〜9月
  • 落花生: 10〜11月
  • ほうれん草: 12月〜翌年2月

これらの品目に集中することで、それぞれの栽培技術をさらに向上させ、より高品質で美味しい野菜をお届けできるよう努めてまいります。

農業だけではない。「選択と集中」が導く成功への道

「選択と集中」という考え方は、決して農業だけの世界に限った話ではありません。
企業の経営戦略においても、リソースを特定の事業や製品に集中することで、競争優位性を確立し、成長を加速させるための重要な戦略として広く知られています。

例えば、かつてのAppleは、多岐にわたる製品ラインナップを展開していましたが、1990年代後半には経営危機に陥りました。
しかし、スティーブ・ジョブズがCEOに復帰後、「iMac」「iPod」「iPhone」「iPad」といった革新的な製品に注力することで、見事に復活を遂げました。
これは、まさに「選択と集中」によって事業を再構築し、成功を収めた好例と言えるでしょう。

また、Amazonも創業当初はオンライン書店でしたが、徐々に事業領域を拡大し、ECサイトとしての地位を確立しました。
その後も、クラウドコンピューティングサービス「AWS」やAIアシスタント「Alexa」など、将来性のある分野に積極的に投資し、事業の多角化を進めています。
これは、市場の変化を的確に捉え、「選択と集中」を繰り返しながら成長してきた企業の代表例と言えるでしょう。

これらの事例からもわかるように、「選択と集中」は、限られた経営資源を最も効果的な分野に投入し、競争力を高めるための普遍的な原則と言えます。
それは、農業においても、他のビジネスにおいても、成功への重要な鍵となるのです。

まとめ:集中がもたらす未来への希望

今回のブログでは、MITUが少量多品目栽培から品目を絞り込むに至った経緯と、その背景にある「選択と集中」という考え方についてお話しました。
生産者と消費者の双方にとって、品目を絞り、深く追求することには多くのメリットがあると考えています。

MITUは、これから絞り込んだ品目一つ一つに、より一層の愛情と情熱を注ぎ、皆様に美味しいと心から喜んでいただける野菜をお届けできるよう、
スタッフ一同、新たな気持ちで取り組んでまいります。今後のMITUの挑戦にご期待ください。

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