【徹底解剖】野菜のエグミは硝酸態窒素のせい?有機野菜と慣行栽培の真実

「有機野菜は味が濃くて美味しい!」
「慣行栽培の野菜はエグみが気になる…」

野菜を食べ比べて、そんな風に感じたことはありませんか?特に、健康志向の高まりとともに、有機野菜を選ぶ方が増える中で、このような味の違いに関する議論は尽きません。
では、実際に有機野菜と慣行栽培の野菜には、科学的、栄養学的に明確な違いがあるのでしょうか?
そして、「慣行栽培の野菜のエグミ」の根源とされる硝酸態窒素とは一体何なのでしょうか?

今回のブログでは、これらの疑問を徹底的に解き明かすべく、関連する研究論文を紐解きながら、有機野菜と慣行栽培の知られざる真実に迫ります。

有機野菜と慣行栽培の野菜に、本当に違いはあるのか?科学的視点からの検証

結論から申し上げましょう。現時点での科学的な研究データを総合的に見ると、有機野菜と慣行栽培の野菜の間には、主要な栄養成分において大きな違いはほとんど認められていません。
1990年代頃から、このテーマに関する研究論文が数多く発表されています。

例えば、

  • 「栽培条件(有機栽培と慣行栽培)の違いによる葉物野菜の栄養成分と官能特性」(日笠 志津、2013)
  • 「栽培条件(有機栽培と慣行栽培)の違いによる野菜栄養成分の比較」(辻村ら、2005)

これらの国内の研究論文を参照すると、有機栽培と慣行栽培の野菜の栄養成分含有量には、統計的に有意な差が見られない場合が多いことが報告されています。
2013年に日笠志津氏が発表した論文では、5年間の長期にわたり、レタス、小松菜、ほうれん草の3種類の葉物野菜を、慣行栽培農家と有機栽培農家からそれぞれ採取し、成分分析と官能試験(味、見た目、香りなどの評価)を実施しています。その結果は以下の通りです。

【レタス】

  • 栄養成分: 慣行栽培と有機栽培で有意な差は認められませんでした。
  • 官能試験: 味や見た目においても明確な差はなく、むしろ栽培地の土壌環境(リンなどの栄養素の含有量)が味の良し悪しに影響を与える可能性が示唆されました。

【小松菜】

  • 栄養成分: 慣行栽培と有機栽培で有意な差は認められませんでした。
  • 官能試験: 有機栽培の小松菜は、見た目と味において良好な評価を得る傾向がありました。ただし、品種によっては慣行栽培の方が良いという結果も出ています。

【ほうれん草】

  • 栄養成分: 慣行栽培と有機栽培で有意な差は認められませんでした。
  • 官能試験: 生の状態での見た目は有機栽培、茹でた後の見た目は慣行栽培の方が良いという評価でした。味については、有機栽培の方が良好な結果となりました。

これらの研究結果から、有機野菜と慣行野菜の間には、主要な栄養成分においては大きな差はないものの、品目によっては官能特性(味や見た目)に違いが現れることがあるということが示唆されます。

なぜ、慣行栽培の野菜はエグいと感じるのか?硝酸態窒素との関連性

一部の人が慣行栽培の野菜に対して「エグみがある」「味がしない」と感じる理由の一つとして、硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)の存在が挙げられます。
先述の日笠氏の論文においても、有機栽培の野菜であっても、硝酸態窒素を多く吸収した野菜にはエグみや苦味が多い傾向が見られたと報告されています。

さらに、海外の研究論文の中には、栽培中に植物が吸収する硝酸(窒素)の量が少ないほど、ビタミンCの含有量が多い野菜が育ちやすいという報告もあります。
これらの研究は、野菜のエグみや苦味の強さと、その野菜に含まれる硝酸態窒素の量には関連性がある可能性を示唆しています。
しかし、ここで重要なのは、硝酸態窒素の含有量が多い野菜が、必ずしも慣行栽培であるとは限らないということです。

硝酸態窒素は、植物が生育に必要な窒素肥料が、植物体内でタンパク質などに完全に変換されずに残ったものです。
これは、肥料の与えすぎだけでなく、過乾燥や日照不足、生育不良など、様々な栽培環境要因によって蓄積される可能性があります。

つまり、「硝酸態窒素が多い野菜=肥料の入れすぎ」と単純に結論付けることはできないのです。有機栽培であっても、不適切な管理によって硝酸態窒素が多く含まれてしまう可能性は十分にあります。

【硝酸態窒素と野菜に関する論文情報】

以下に、硝酸態窒素と野菜の関連性に関する研究論文の例をいくつかご紹介します。

  1. Maynard, D. N., Barker, A. V., Minotti, P. L., & Peck, N. H. (1976). Nitrate accumulation in vegetables. Advances in Agronomy, 28, 71-118.

    • この論文は、野菜における硝酸の蓄積に関する初期の包括的研究です。硝酸の蓄積に影響を与える遺伝的、環境的、管理的要因について詳しく解説しています。
  2. Santamaria, P. (2006). Nitrate in vegetables: toxicity, intake, metabolism and mitigation strategies. Journal of the Science of Food and Agriculture, 86(1), 1-17.

    • この論文は、野菜中の硝酸の毒性、摂取量、代謝、およびその低減戦略について概説しています。硝酸の健康への影響と、栽培方法や収穫後の処理による硝酸含有量の制御について議論しています。
  3. Högberg, L., Sørensen, J. N., Sørensen, L., & Johansen, A. (2008). Effect of organic and conventional cropping systems on nitrate accumulation and vitamin C content in leafy vegetables. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 56(17), 7969-7978.

    • この研究では、有機栽培と慣行栽培の葉物野菜における硝酸蓄積とビタミンC含有量を比較しています。結果として、栽培システムによる硝酸含有量への一貫した影響は見られず、むしろ環境要因や収穫時期の方が重要であることを示唆しています。
  4. Colla, G., Rouphael, Y., Di Mattia, E., El-Nakhel, C., & Cardarelli, M. (2018). Nitrate in horticultural crops: A review. Scientia Horticulturae, 237, 221-242.

    • この論文は、園芸作物における硝酸の蓄積に関する最新の研究動向をまとめています。硝酸の生理学的役割、蓄積に影響を与える要因、および消費者の健康リスクと低減戦略について議論しています。

これらの論文を読むと、硝酸態窒素は野菜に自然に含まれる成分であり、その含有量は栽培方法だけでなく、土壌の種類、気象条件、肥料の種類と量、収穫時期など、多くの要因によって変動することが理解できます。

有機野菜と慣行栽培の栄養価:栽培方法よりも「育て方」が重要

これまでの研究データを総合的に見ると、有機栽培と慣行栽培の野菜の間には、主要な栄養成分において明確な差はないというのが、現時点での科学的な結論と言えるでしょう。
以前のブログ記事「有機栽培と自然栽培の野菜の違いとは?知っておきたい栽培方法の基礎知識」(https://sizennouenmitu.com/archives/515)でも触れたように、栽培方法の違いよりも、畑に入れた肥料の量や種類、土の性質といった、より具体的な栽培管理が野菜の栄養価や味に影響を与えると考えられています。

例えば、肥料をできるだけ少なくしたり、有機質肥料のようにゆっくりと効果を発揮する肥料を用いることで、味が良く、ビタミンCを多く含む葉物野菜が栽培できる可能性が示唆されています。
また、有機栽培においては、肥料がゆっくりと植物に吸収される過程で、「甘み」が強くなる傾向があるという研究者の見解もあります。

現在も、土壌に関する研究者たちは、「なぜ有機野菜が美味しいと感じられることが多いのか」という問いに対して、様々な角度から研究を進めています。
近年では、土壌の成分を詳細に分析し、畑に不足している養分や微量元素をピンポイントで補給することで、高い栄養価を持つ野菜を栽培する技術も登場しています。
さらに、特定の栄養素を多く含むように品種改良された「機能性野菜」も注目を集めています。

また、アミノ酸肥料の使用が野菜の美味しさに貢献する可能性や、慣行栽培においてもできるだけ少ない肥料で高品質な野菜を育てるための取り組みも進んでいます。

消費者が賢く野菜を選ぶために:栄養よりも大切なこと

栄養成分の違いという観点から見れば、現時点では慣行栽培と有機栽培の野菜の間に大きな差はないため、どちらを選んでも良いという結論に至ります。

私たちMITUは、消費者の皆様が野菜を選ぶ際に、以下の2つの点をより重視してみてはいかがでしょうかと提案します。

① 農法の違いよりも「旬」であるかどうか

野菜は、その季節に最も適した環境で育つことで、本来の味と栄養価を最大限に引き出します。旬の野菜は、露地栽培で太陽の光をたっぷりと浴びて育ち、味も濃く、栄養価も高くなる傾向があります。

② 土の状態に合わせて健康に育った野菜であること

栽培方法に関わらず、その土地の土壌の状態をしっかりと把握し、野菜が健康に育つように丁寧に管理された野菜を選ぶことが大切です。
生産者の顔が見える直売所や、栽培方法や肥料について積極的に情報開示している農家から購入するのも良い方法でしょう。

私たちMITUも、仙台沿岸の豊かな土壌と気候を活かし、それぞれの野菜にとって最適な栽培方法で、皆様に安心してお召し上がりいただける美味しい野菜を育てています。

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