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有機農法の野菜は危険?!
たびたび起こる有機農業ブーム。
その中で2000年代、有機野菜は危ない!と主張するブログも多く見られました。
何故、有機野菜が危ないと言われるのか?
調べてみると、そこには「堆肥の問題」がありました。
堆肥=危険で調べてみると、
元になる動物に遺伝子組換え飼料を使用していて危険であると主張するケース、
抗生物質や薬品を大量服用させていて危ないという主張するケース、
堆肥=病原菌の温床、重金属の塊と表現されているケース、
動物から排泄されたものを堆肥化させることそのものを危惧しているケースもあります。
このブログでは、堆肥を使った有機野菜が何故、危険なのかについて見ていきたいと思います。
堆肥は危険?
2009年に出版された「本当は危ない有機野菜―リサイクル信仰が生み出す「恐怖の作物」」という本では、有機野菜は危険だ!と警鐘を鳴らしています。
この本が出版されたことがきっかけか、この頃に有機野菜=危険、という議論が活発に行われました、と考えられています。
しかし、よ〜く読むと有機野菜が危ないのではなく、堆肥が危険だと述べています。
では、堆肥の何が危険なのか?
著者によれば、有機栽培では大腸菌などの病原菌や重金属をたくさん含んでいることが理由に上げています。
堆肥が大腸菌まみれ?!
堆肥が大腸菌まみれである、という危険性についてまず見てみます。
2005年に発表された「種々の堆肥中における大腸菌群等の生残」によれば、九州の堆肥化施設23ヶ所を調査したところ、堆肥の中から大腸菌群およびサルモネラ菌が検出されたことが報告されました。
これは、堆肥化する中で発酵熱が不足していたり、水分が多いことで菌が死滅しなかったためであり、適した発酵熱、水分では菌が死滅していたと述べています。
つまり、未熟な堆肥を田畑に使うと大腸菌群などにさらされるリスクが高まると考えられます。
多くの場合は、病原菌が死滅するまで充分に発酵させ水分も調整するので、堆肥=大腸菌まみれということにはならないと考えます。
有機農業でも農薬などを使う一般的な農業でも未完熟な堆肥を使用することで畑に大腸菌群やサルモネラ菌が住み着く可能性はあります。
ですので、有機野菜=堆肥が大腸菌まみれで危ない、ではなく、未熟な堆肥=大腸菌等が多いということになりますね。
また、農水省によれば、野菜の0.2〜4%から大腸菌が検出されることがあるそうです(https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_yasai/kekka/vegetable.html#:~:text=%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81%E9%87%8E%E8%8F%9C%E3%81%AE0.2%EF%BD%9E,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%92%E7%A4%BA%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82)
これは未熟な堆肥を使用してしまった場合に加え、野生動物が侵入してくる畑で検出されることがあるとのことでした。
大腸菌が付着した野菜を生で食べると、菌に感染する危険性があります。
野菜を生で食べる際には、流水で野菜をしっかり洗う、手や調理道具も使用前にきちんと消毒殺菌を行いましょう。
重金属が多い堆肥
次に堆肥の使用で問題に取り上げられるのは、重金属です。
家畜ふん堆肥には、様々な重金属が含まれ、それが植物に吸収されることで食べる人間への健康被害が出てしまう、というものです。
何故、家畜ふん堆肥には重金属が多いのでしょうか。
家畜ふん堆肥の中で、豚ふん由来の堆肥は牛ふん由来のものに比べ、亜鉛や銅の含有量が高いと言われています。
(折原ら「家畜ふん堆肥の重金属含有量の特性」日本土壌肥料学雑誌2011)
豚ぷん堆肥中の銅・亜鉛含量はなぜ高いのか。
農研機構畜産草地研究所の「豚ぷん堆肥中の銅・亜鉛含量はなぜ高いのか」という資料などを調べてみると、豚を飼育する際、
食用にするため身体を大きくしたり、健康にするために飼料や添加物として与える。
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豚が必要な栄養を吸収した後、余分なものは糞尿として排出。
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その際に、濃度が4倍に濃縮。
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堆肥化するとさらに2倍濃縮し、濃度の高い堆肥ができる。
という流れになるのだそうです。
ということは、重金属の含まれている堆肥は危険なのか?
結論から述べると、今の段階では「危険ではない」と考えらます。
これまで重金属の含有量が低くなるような堆肥化の技術が研究されていますし、堆肥を十分発酵させることで重金属の含有量が低くなるという報告もあります。
また、肥料取締法の規定にもとづく告示「特殊肥料の品質表示基準を定める件(農林水産省告示第 364号平成17年2月改正)」では銅や亜鉛の濃度が一定以上含まれている場合には、その旨表示する義務が与えられています。
土壌肥料専門の先生に直接お聴きしたところ、現在堆肥として売られているものの多くは重金属の問題はない、という見解でした。
ただし、銅が多く含まれている堆肥は、毎年連用すると土壌が悪くなる(銅には殺菌効果があり、土壌の微生物を殺してしまう)可能性もあるため、堆肥を使用する場合には4年に1回程度堆肥の使用を止め休ませたほうがいいとのことです。
また、その他の重金属については、地域によってかなりのばらつきがあるとのことです。
例えば、鉱山近くから流れている川からは少なからずいくつかの重金属が検出。
川下で育てられたコメや野菜にも重金属が検出されるそうです(ただし基準値以下)
そのため、堆肥を作る際の副資材(もみがらなど)に亜鉛や銅以外の重金属が微量検出される場合もあるとのことでした。
堆肥と環境汚染
突然ですが、あなたは、、、
お肉やチーズは食べますか?
牛乳飲みますか?
卵は食べますか?
何故、こんな質問をしたかというと、我々の食事と堆肥には切っても切れない関係があるからです。
例えば、肉牛を見ると、
牛の食べる飼料の量は、品種や牡牝にもよりますが、1日6〜7キロの飼料です。
肥育日数は540〜600日なので、生まれてからの排泄量は年間8〜9トンと言われています。
人1人が一生のうちに食べるのは、平均2.4頭なので私たちが一生のうちに牛肉を食べるために、約20トンの排泄物が生じています。
この排泄物を堆肥化して田畑に還元すれば、物質の循環が生まれます。
ただし国内で飼料を作り、それを家畜に与えた場合です。
今は家畜の飼料の多くが、海外産になっています。
海外から運ばれた飼料を家畜が食べ、排泄物が生じる。
物質が循環せず、家畜の排泄物が増え、環境負荷になっています。
この問題を解決する方法の1つが堆肥化させ、田畑に還元するという流れです(もう一つの解決策は、飼料を輸入するのではなく、肉そのものを輸入するという方法)。
根本的には地域で作られた飼料を家畜に与え、その家畜から発生した糞尿を堆肥化させ、再び畑に戻すことをしなければ、この問題は解決しないのですが、、、、。
参考資料:松本 成夫「国レベルの食飼料システムにおける窒素フローからみた家畜ふん尿の農地利用 」畜産環境情報 2015
自然農法の中には、家畜ふん堆肥の使用を良しとしない農法もあります。
しかし、自然の循環の中で野菜だけではなく、卵や肉、乳製品を食べる私たちにはこの家畜の排泄物の問題とその先にある環境問題を考える必要があるのではないかと考えています。
余談:当園での堆肥の扱い
MITUは基本的には自然栽培と有機栽培の狭間の農法で化学農薬を使わずに野菜を育てています。
自然栽培や有機栽培の定義は各団体や研究機関で様々あるため、MITUのやり方をどこに位置づけるかは難しいところがありますが、、、。
取り組みとしては、完熟堆肥を植え付け数ヶ月前に施肥。
春〜夏には、緑肥と呼ばれる植物を畝間で育てたり、雑草と呼ばれる草たちを生やしてそれを土に還元していく「草生栽培」を中心にしています。
毎年土の状態(生えてくる草や生き物など)や土壌分析の結果を元に、堆肥をどのくらい投入するか、緑肥は何にするかを決めています。
野菜が生育している期間は、生育状態を見ながら必要に応じて、ボカシ肥料や自作の微生物資材などを与えています。
また、仙台にある畑の一部では、化学肥料も少量ですが使用しています。
震災後、復旧工事、ほ場整備事業と立て続けに工事が入り、沿岸の多くの畑はただの「土」となってしまい、草も生えないような状態です。
そのため、まずは「畑」として、土壌の物理性、生物性、化学性をそれぞれ改善することを目的に堆肥や化学肥料、土壌改良材など考えられる方法を試し、「土壌の回復」に努めています。
私たちは健康な野菜を育てるためにはどう育てていくかを追求していきつつ、地域の農家さんとのつながりを大切にし地域での資源循環を考えています。
例えば、大崎にある圃場の近くには肉牛を育てている農家さんがいます。
昔は、周りの農家に堆肥を配り、その堆肥を使って田畑を耕したそうです。
しかし、最近は、農業従事者の減少と化学肥料が進歩したことで堆肥をあまり使わず、行き場のない堆肥がずっと堆肥舎に保管されたままどんどん溜まっていくそうです。
畜産農家さんも頭を抱えていらっしゃいました。
なので、「うちで使います!」と手を挙げました。
その部落で野菜を作っている専業農家が私くらいしかいなかったこともあり、2年に1回程度ですが、畑に散布しています。
江戸時代には、農村部の人が都市部に野菜を売りに来て、その帰りに下肥をもって帰り、それを畑に入れ作物を育てていたと言われています。
自然の物質循環があったんですね。
今は今なりの自然の物質循環を考えていきたいと思っています。