これまで農福連携のお話①〜③では農福連携を進める上でのお話をしてきました。
今回は具体的に作業中の安全面について私自身が経験してきたことや当園の現場でのお話を交えながら農福連携のスタッフが作業する際の安全面への配慮について考えていきたいと思います。
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実は多い!農作業中の事故
農林水産省では、1971年以降、農作業における死亡事故の調査を行っています。
その資料によると、毎年400人前後の方が事故で亡くなられています。
他の産業では、1971年を100とすると2013年には26.9%まで減少していますが、農作業では96.2%とほとんど減っていません。
農作業の事故で多いのはトラクターや耕運機、運搬車などの農機による事故が大半です。
農機以外では、ハシゴ使用中の転落や道具による負傷が多くなっています。
畑作業での事故にはどんなものがある?
畑作業をする中での事故の危険性を考えて上げてみると、下記のことが主に挙げられると思います。
トラクターや耕運機による事故
トラクター運転中、死角に人がいた・バックしたら人がいた。
ちょっとした操作ミスでトラクターが横転した。
耕運機で安全装置を外したまま作業し、操作ミスで足を負傷した。
農業機械の重心がわからずバランスを崩し転倒
刈払機による事故
草刈り中に近くに人がいることに気が付かず、飛散物や刃怪我をさせてしまう刃の回転が止まるのを確認せず、刃で怪我。
目や頭部に飛散物があたり、負傷する。
とある施設では刈払機で草刈り中に周囲の人やモノに石などを当ててしまい傷を追わせた事例があります。
鎌やハサミによる事故
使用時のミスにより負傷。ハシゴの上で作業中にハサミを落とし、下にいた人の身体に刺さり負傷。
特に農福連携で多いのは鎌やハサミによる事故です。
上手く使うことが出来ず、指や手足を切ってしまったり、鎌やハサミを持ったまま移動中に人に当ててしまい傷を負わせたといったものがあります。
また、ある施設では、精神障害のある方が突然鎌を振り回し近くの人を負傷させたという事件が起きたこともありました。
道具の使い方やその人に危険予知能力があるか、突発的な行動を取る危険性はないかといったことはしっかりと確認する必要があります。
運搬中の事故
重いものを搬送中に足元に落とし、足を負傷。
人参や大根などが満杯に入ったコンテナを畑から軽トラックに移動する際に、足元に落としてしまうといったことが生じる可能性があります。
簡単ではありますが、ざっと思いつくだけでも上記のような危険性が挙げられます。
普段、作業をしている私たちも事故が起きないように農業機械や農具を使う際には、神経を張り詰めながら作業しています。
事故を未然に防ぐために
農作業では農業機械や農具などによる事故の危険性があります。
事故の危険性を未然に防ぐためにどんなことに注意しなければいけないのでしょうか。
大まかにまとめると、下記のようなことに注意が必要と考えられます。
作業にあった服装選び
これは基本的なことですが、意外と守られていないことも多いです。
特にヘルメット着用。
トラクター運転時や刈払機で作業する際にはヘルメットが必要です。
また作業に合わせて腕や足のプロテクター、靴(水田長靴、安全靴、スパイク等)、ヒモ(ズボンや靴のヒモが回転軸に巻き込まれてしまうケースも)、フェイスガード、防護メガネ、手袋などを身に着けます。
作業前、作業時の安全確認
農業機械の場合には、マニュアルに「安全に作業を行うために」という項目があるので、きちんと読みましょう。
意外ときちんと読まずにあとから「知らなかった」と気づくこともあります。
また、複数人で作業する場合には、事前に作業手順や安全確認の手段、面取りなどを行い、安全に作業ができるように心がけましょう。
生産者と施設の職員で話し合いをしながら、進めるとよいのではと思います。
施設外就労で支援員さんもスタッフさんと一緒に作業をして夢中になってしまうこともたびたびあるのですが、特に道具を使う際は注意深くスタッフさんを観察していくことが大切なのではと思います。
就労支援/施設外就労で安全に農作業をするために
実際に私がいくつかの就労支援の現場で見てきたことや今まで自身が取り組んできたことから障害のある方が安全に作業するための方法を考えていきたいと思います。
農業機械や農具を使えるだけの身体的・精神的状態にあるかを確認
これが一番、判断の難しいところだと思います。
これまで見てきた現場では身体機能が高い障がいのある方は、農業機械の操作や刈払機の操作をしている方もいました。
ただ身体機能が高いからといって安全に作業ができるかというとちょっと違うと思います。
精神的に障がいを抱えている場合もあるので慎重に見極めないといけません。
例えば、
精神的な障害のある方が何かの拍子に感情的なスイッチが入り、興奮し、機械や農具をもったまま振り回して暴れてしまい怪我をさせてしまうケースや「◯◯すると危ない」という認識が薄く面白半分に機械操作をしながら人に近寄ってきて怪我をさせてしまいそうになるケースもありました。
うちでは農業機械は基本的に健常者のみしかやりません。
十分に身体・精神状態などを把握し、「安全に」作業をできるという確信がない限りは、今後もお願いしないことにしています。
農具に関しても今は基本的に就労支援施設の職員さんの判断におまかせしていますが、それまでは農具を使えるかどうか、使っても問題ないかを観察することから始めました。
特に精神的な疾患を抱えている方の中にはその日その時の状態で作業が安全にできるかどうかが変わってきます。
初めて農作業を行う場合は、じっくり時間をかけて観察したり、コミュニケーションを取りながら状態を把握することから初めたほうが良いのではないかと思います。
作業をお願いする場合には施設の職員の方やご家族との情報交換など密に行い、作業内容を考えるようにしましょう。
作業するときの流れや面取りを確認
今お世話になっている就労支援施設は長年農作業に従事しているので、作業するときの流れはおまかせしています。
以前は鎌やハサミを使用する際には、作業に適した服装を身に着けた上で、作業中に周りに怪我をさせないように、また作業者自身が怪我をしないように、道具の使い方や作業の手順、どの方向に向かって行うかやどの範囲で作業をするかを決めてから作業をしていました。また道具を使う練習もじっくり時間をかけて行いました。
道具を使うのが難しい場合は
どうしても作業で道具を扱うのが難しい場合は、道具を使わなくてもできる作業を考えています。
そこは支援員の方と生産者で話し合いをしながら。
うちでは例えば草刈りをした刈り草を集めて囲んだり、収穫した野菜を入れたカゴを運んでもらったり、野菜の選別をしてもらったりなど、その人の得意なことで作業をしてもらいます。
作業の1つ1つをチームワークでやるのが良いと考えています。
チームワークについて取り上げたブログはこちら⬇
どうしても怪我してしまうことも
作業に適する服装をしていたり、作業の方法や手順などを決めていても、どうしても怪我をしてしまうことはあります。
作業に夢中になりすぎて、鎌で指を怪我してしまうこともあります。
そんなときのために救急箱は常に持ち歩いています。
万が一怪我をしてしまったときには、応急処置をして、必要であれば通院を。
軽症であれば、ご家族や職員の方に報告します。
最後に
農業の現場では、アグリセラピーや農福連携という形で障がいのある方が農作業することのメリットが取り上げられることが多いです。
その一方で、作業中の事故の危険性、安全の確保が忘れられがちのこともあります。
農業機械や農具を使う際には、事前の準備や確認、作業中の観察や安全性の確認を行うよう気をつけていきたいですね。