近年注目を集める「農福連携」。
農業分野と福祉分野が連携し、障がいのある方々が農業に携わることで、社会参加や生きがい創出、そして農家の労働力不足解消といった多岐にわたる効果が期待されています。
「農福連携に興味はあるけれど、うちの利用者さんにはどんな作業が向いているんだろう?」
このように感じている福祉施設の職員の方や、農福連携に関心のある農家の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、約5年間、少量多品目の露地野菜を中心に農福連携に取り組んできたMITUの経験をもとに、「取り組みやすい農作業」を段階別に紹介していきます。
*本記事では、障がいのある方を「スタッフ」と表記します。
*MITUでは主にB型就労支援施設と農福連携に取り組んでいます。
Table of Contents
農福連携を始める前に:大切な前提条件
露地栽培を中心とした農福連携においては、「最低限の体力がある」ことが前提となります。
畑での作業は、想像以上に体力を使う場面も少なくありません。
もし、体力面に不安があるスタッフが多い場合は、施設内で体力向上プログラムを取り入れたり、農園での研修という形で徐々に農作業に慣れながら体力をつけていくことをおすすめします。
レベル別!取り組みやすい農作業
MITUさんの経験に基づき、取り組みやすい農作業をレベル別に紹介します。ご自身の施設や農園の状況と照らし合わせながら、参考にしてみてください。
LEVEL1:まずはここから!畑に慣れるための作業
1.石拾い
意外かもしれませんが、最初に非常に取り組みやすかったのが「石拾い」です。
特に、石の多い圃場では、人手があると非常に助かる作業です。
ポイント:
- 判別力: 土の塊と石をしっかりと区別できるかどうかが重要になります。自然に触れる機会が少ない方の場合、最初は戸惑うこともあるかもしれません。
- 単純作業: 基本的には拾うという単純な作業なので、比較的指示も理解しやすく、集中しやすいのがメリットです。
2.圃場片付け
作付けが終わった畑の片付け作業も、比較的取り組みやすい作業です。具体的には、マルチ(黒いビニールシート)剥がし、支柱やキュウリネットの撤去、枯れた作物の株抜きなどがあります。
ポイント:
- 注意点: マルチを剥がす際に土に破片が残らないように丁寧に作業すること、支柱を曲げないように注意することなどが求められます。
- 役割分担: 作業内容を細分化し、それぞれの得意なことに取り組んでもらうことで、よりスムーズに作業を進めることができます。
LEVEL2:少しずつステップアップ!屋外作業に慣れてきたら
1.草取り
「簡単な作業」と思われがちですが、実は奥が深いのが草取りです。
ポイント:
- 判別力: 雑草と野菜の苗をしっかりと見分けられるかどうかが重要です。
- 丁寧さ: 草を抜く際に、野菜の苗を一緒に抜いてしまわないように注意が必要です。
- 後始末: 抜いた草に土がたくさんついている場合は、畑に落とさないように配慮できると良いでしょう。
- 集中力: ある程度の時間、集中して作業に取り組めるかどうかもポイントになります。
2.防鳥紐などの設置
鳥害対策として畑に張り巡らせる防鳥紐や、キュウリなどのつる性植物を這わせるためのネット張り作業も、比較的取り組みやすい作業です。
ポイント:
- 準備と手順: 農家側で事前に必要な資材を準備し、作業手順を丁寧に説明することで、スムーズに進めることができます。
- 安全確認: 高所作業になる場合は、安全面に十分配慮する必要があります。
LEVEL3:収穫作業に挑戦!達成感を味わおう
1.根菜類の収穫
大根やニンジン、ジャガイモなどの根菜類の収穫は、ある程度コツを掴めば比較的安定して作業に取り組めます。
ポイント:
- 収穫基準: 農家側で収穫する大きさの目安を事前にしっかりと伝えることが重要です。
- 道具の扱い: ハサミを使って葉や茎を切り落とす作業がある場合は、安全にハサミを使えるかどうかの見極めが必要です。
- 丁寧さ: 収穫時に根菜を傷つけないように丁寧に扱うことが求められます。
2.収穫物の移動
収穫した野菜をコンテナや箱に入れて、集積場所まで運ぶ作業です。
ポイント:
- 体力: ある程度の体力が必要になります。
- 丁寧さ: 収穫物を手荒に扱ってしまうと、傷や品質低下につながるため、丁寧に運ぶように指導することが重要です。
LEVEL4:種まき・植え付けに挑戦!育てる喜びを感じよう
1.根菜類や豆類の種まき
種まき機や移植機を使用することが多いですが、手作業で種をまく場合もあります。
ポイント:
- 正確性: 指示された種の深さや数を守ってまけるかが重要になります。最初は、種をうまく掴めなかったり、深さを間違えたり、多くまきすぎたりするケースも見られます。
- 見守りと個別指導: できるようになるまでは、職員が見守り、必要に応じて個別の指導を行うことが大切です。
- 作業の細分化: 種を渡す人、穴に入れる人など、作業を細分化することで、得意なことを活かせるように配慮します。
2.苗の植え付け
野菜の苗を畑に植え付ける作業です。
ポイント:
- 丁寧さ: 根を傷つけないように丁寧に植え付けることが重要です。
- 深さの管理: 指示された植え付けの深さを守る必要があります。
- 補助作業: 最初は、植え付け位置に穴を開ける、苗を置くといった補助的な作業から始めてもらうのも良いでしょう。
LEVEL5:より専門的な作業へ!判断力と技術が求められる
1.果菜類・葉物野菜の収穫
トマトやナス、キュウリなどの果菜類や、キャベツやレタスなどの葉物野菜の収穫は、収穫時期の見極めや、傷つけずに収穫する技術が必要となるため、難易度が上がります。
ポイント:
- 判断力: 収穫可能なサイズや色を正確に判断する力が必要です。
- 丁寧さ: 株や収穫物を傷つけないように丁寧に作業する必要があります。特に葉物野菜は、茎を折らないように注意が必要です。
- 刃物の扱い: ハサミやナイフを使用する場合は、安全に使えることが前提となります。
- 練習: 精神的な病を抱えている方や社会復帰を目指している方には、教えながら少しずつ練習していくことが大切です。
LEVEL6:農作業の要!生育管理
1.野菜の管理
種まきや植え付けが終われば、あとは収穫を待つだけではありません。作物が順調に育つためには、間引き、誘引、摘葉、脇芽かきなど、様々な管理作業が必要になります。
ポイント:
- 判断力: 苗の状態を見て、間引きのタイミングや管理の方法を判断する力が必要です。病害虫の兆候を見つける観察力も求められます。
- スピードと丁寧さ: 適切なタイミングで、かつ丁寧に作業を行う必要があります。
- 器用さと集中力: 細かい作業も多いため、ある程度の器用さと集中力が必要です。
これらの管理作業は、収穫量や品質に大きく影響するため、基本的には農園側が行うことが多いのが現状です。
施設内作業も重要!出荷準備
屋外作業が難しいと感じるスタッフがいる場合は、施設内での出荷準備作業も農福連携の重要な一環です。
LEVEL1:基本中の基本!シール貼り
1.シール貼り
収穫した野菜の袋に、農園のオリジナルシールや値札シールを貼る作業です。
ポイント:
- 正確性: 所定の位置に、まっすぐ綺麗にシールを貼ることが求められます。
LEVEL2:数を数える力も必要!根菜類や豆類の袋詰
1.根菜類や豆類の袋詰
指定された重さになるように、根菜類や豆類を袋に詰める作業です。
ポイント:
- 計量: はかりの数字や針の位置を正確に読める必要があります。
- 丁寧さ: 袋に綺麗に詰められることも大切です。
- 役割分担: 重さを測る人と袋に詰める人に分担することで、より効率的に作業できます。
LEVEL3:力加減がポイント!果菜類の袋詰
1.果菜類の袋詰
根菜類の袋詰ができる方に、手の力加減や丁寧さが求められる果菜類の袋詰をお願いします。
ポイント:
- 力加減: ちょっとした力加減で実を潰したり、傷つけたりしてしまう可能性があるため、慎重な作業が必要です。
- 丁寧さ: 傷つけないように丁寧に扱うことが重要です。
LEVEL4:意外と難しい!?袋とじ
1.袋とじ
野菜を入れた袋を「バックシーラー」という道具で閉じる作業です。
ポイント:
- 習熟: きれいに閉じることが意外と難しく、練習が必要な場合があります。
- 注意点: 勢いよく閉じすぎると、中の野菜を傷つけてしまうことがあります。
LEVEL5:繊細な作業!葉物野菜の袋詰
1.葉物野菜の袋詰
葉物野菜は非常にデリケートなため、袋詰は比較的難しい作業と言えます。
ポイント:
- 丁寧さ: 茎を折ったり、葉を傷つけたりしないように、非常に丁寧な作業が求められます。
- 機械化: 袋詰の機械が導入されていれば、難易度は下がる可能性があります。
「農業ならできる」は安易な考え?
「農業なら、単純作業が多いから障がいのある方でもできるだろう」
このような安易な考えは危険かもしれません。
確かに、比較的取り組みやすい作業もありますが、農業も多種多様な作業があり、中には高い集中力や判断力、技術を必要とするものも少なくありません。
実際に農作業を体験した結果、「工場の生産ラインの方が単純作業が多くて楽だった」と感じる方もいるようです。
露地野菜で少量多品目栽培を行っている農家では、工場の生産ラインのような単純作業は少ない傾向にあります。
一方で、大規模な施設園芸や、少品目での栽培を行っている農家では、農福連携の成功事例も多く報告されています。気になる方は、ぜひ調べてみてください。
最後に:継続的な農福連携を目指して
農福連携は、単なる「流行」ではなく、農家と福祉施設がそれぞれの強みを活かし、継続的に取り組むことで、より大きな成果を生み出す可能性を秘めています。
今回の記事が、農福連携に関心のある皆様にとって、具体的な作業内容を知るきっかけとなり、より良い連携に繋がる一助となれば幸いです。まずは、それぞれのスタッフの得意なこと、興味のあることから、無理のない範囲で農作業に取り組んでみてはいかがでしょうか。